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「これまでの人生を悔いているなら――死んで罪を贖おうなどと思わずに、生きて誰かの役に立つことを考えるべきではないか。例え殺されて当然の人間であったとても、人の命を奪ったことは変えようのない事実だ。良い悪い以前にお前さんの中では決して気持ちの晴れる清々しい記憶としては残っていねえだろうことも想像に容易い。それらの記憶が無意識にお前さんを苛んでは、夜中に突如うなされて飛び起きることだってあるかも知れねえ。それがお前さんにとって辛く苦しいことでも、てめえのしてきたことを忘れず、うやむやにせずに真正面から受け止めて生きていくんだ」
「周 ……老板 ……」
「てめえのこれまでの人生を悔いながらでも必死に、懸命に生きていくことが贖罪だ」
「はい……はい! 手前のような輩が堅気としてやっていけるのか……世間がこんな手前を受け入れてくれるのか……分かりませんが、今の老板 のお言葉を胸に刻んで参りやす……!」
ボロボロと止め処なく涙するロナルドに小さくうなずきながら、
「そうであろうな。お前さんのような稼業で生きてきた者が今更堅気になったところで、まともにやっていくのはしんどかろうな」
焔 は厳しいと思われるそんなひと言をつぶやいた。
「おっしゃる通りです……。ですが、それも手前で蒔いた種と手前を戒め、どんなに厳しかろうとこれからは悪事に手を染めずに生きていきたいと思います」
「――そうか」
「はい。誓います」
「分かった。その決心のほど、しかと受け止めた」
焔 は言うと、もうひと言――ロナルドにとって驚くようなことを口にした。
「ロナルド、人にはそれぞれ背負って生まれたとも言える運命というものがあるような気がするのだ。得手不得手、適材適所とでもいおうか――。堅気になって生きていくのももちろん良かろう。だが、お前さんが良ければこの俺の側でお前さんの持つ″得手″を役立てながら生きてみる気はないか」
「……は、あの……」
「無理強いする気はねえ。偉そうなことを言ったが、俺とて裏の世界に生きる者の一人だ。決して胸を張れるだけじゃねえ人生を送っていることも事実だ。デカいツラしてお前さんに説教できるような聖人でもねえ。それでも――こんな俺でも誰かの日々の平穏を保つ為に役に立てることがあるなら――それがどんなにささやかなことであっても精一杯心を尽くしたいと思っている」
もしもお前さんが、少しでもこんな俺の生き方に感ずるところがあると思ってくれるのならば、ファミリーとして共に歩んでみる気はないか――そう言った焔 に、ロナルドはしばし返答の言葉さえ失ったようにしながら、驚きの表情で焔 を見上げていた。その双眸からは溢れ出た滝のような涙だけが彼の頬を濡らし――。
ロナルドはあまりの感激でか、ただただ涙するしかできなかった。
「周 ……老板 ……身に余る光栄なお言葉……こんな手前にそのようなご厚情……」
どう御礼を申し上げてよいか言葉もありません!
ただただ泣き濡れながらもロナルドは、命をかけてついて参らせてください――と言ってはベッドのシーツの上で頭を擦り付けた。
そんな彼を見つめながら、遼二 と李 もまた――穏やかにうなずき合うのだった。
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