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「へええ、皇帝様も粋なことなさるのなぁ。つかさ、それって冰 君のことをめちゃくちゃ大事に想ってるって証拠だべ!」
愛されてるなぁ、良かったなぁと喜んでくれる紫月 の傍らで、冰 はますます挙動不審にモジモジとうつむき始まった。
さすがにこれほど大事にされれば冰 君も嬉しいのだろうな――などと素直に思った次の瞬間だった。
「あの、兄様……。それでですね……。三日目のお餅をいただいた後のことなんですが……。あの……つまりその――しょ、初夜って僕は何をどうすればいいのでしょうか……!」
「――は?」
しばし返答もままならず、紫月 はポカンと大口を開いたまま唖然とさせられてしまった。
「えっと、冰 ……君?」
「ですからその……あ、明日の結婚式が済んだら……僕は焔 さんとお餅をいただいて……そのまま一緒の寝所で休むことになっているのですが……その……初夜に僕は焔 さんに何をして差し上げるべきかと思い……まして」
つまり新婚初夜の睦のことを言っているのだろうが、あまりの純朴さに紫月 は一瞬返答の言葉を失ってしまったほどだった。そして次の瞬間、悪いとは思ったものの「ブハッ!」と吹き出してしまうのを抑えられずに、かといって大真面目な冰 に対して笑うのも憚られて、紫月 は百面相さながらの変顔を制御できずにアワアワとさせられることになったのだった。
「あ、あのな冰 君。そいつぁつまり……」
(まさかだけど、皇帝様は未だこの冰 君とヤってねえってこと……?)
思わず邪 な想像が浮かんでは頭がこんがらがってくる。婚約はとうに済んでいるわけだし、紫月 としては当然情は交わしたと思い込んで疑わなかったわけだ。まさかあの帝王を絵に描いたような皇帝・周焔 が結婚式の済むまでは手を出さないでいた――などとは想像すらしていなかった。
そんな紫月 に相反して冰 は大真面目の様子でいる。
「あの……兄様はこちらの男遊郭街で長いことお暮らしになっておられますし、男娼の皆さんのご指導をなされていらしたのですよね? それでその……お、お、男の方とそういったことをする……やり方というか、礼儀というか……決まり事というか……そういったことをご存知かと思いまして。明日の初夜に焔 さんに失礼があってはいけないと思い、是非ともご教示を賜りたく……その……」
「あ……うん、そ、そだな」
冰 があまりにも純朴過ぎて、正直なところどう″ご教示″すべきかと頭を捻らされるところだ。
(……っつってもなぁ。俺だって一応男遊郭を任されてるとはいえ――実際に野郎と寝た経験ってのは無えわけだから)
紫月 は男遊郭の看板として一応は男娼という括りになっているものの、まだ例の頭目・羅辰 がいた時であっても父の飛燕 によって客と床を共にすることはしないという契約のまま今日まできたのだ。
(ま、まあな……野郎同士でアレするメカニズムってのは、一応理解しちゃいるけどもが……。とはいえ、実際俺とて後ろはれっきとしたバージンにゃ違いねえわけだよ……)
はてさて、どう教えたものか。
困った紫月 はふと名案を思いついて、パチンと指を鳴らしては瞳を輝かせた。
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