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カジノ区、遼二 邸――。
「阿片 というと――すぐに思い当たるのは例の白蘭 がこの地下街を崩壊させようと企んでいた話ですね」
組幹部である清水 がそう言う。
「ああ、その通りだ。ロナルドが阻止しなけりゃ、今頃は既に壊滅状態だっただろう」
「もしかするとその時の残党が阿片 を持ち込んだ可能性も考えられませんか?」
「白蘭 が伝手 をつけていたという麻薬密売組織の連中か――」
「ええ。その連中が白蘭 の企みを利用して地下街の皇帝に取って代わろうとしている――としたら」
「ふむ、可能性としては充分考えられるな」
白蘭 本人は当局に捕まり監獄暮らしになったとはいえ、彼女が通じていた麻薬組織の男たちがその企みごと乗っ取った可能性は高い。
「……クッ、檻にぶち込まれてもあの女の残していったものに苦しめられるとはな」
やはり元凶は白蘭 か。誠、とんでもない怪物もあったものだ。
「よし。では俺たちは白蘭 が通じていたと思われる麻薬組織の方から探りを入れてみるとしよう。ロナルドの協力が必要だな」
遼二 はロナルドが殺し屋仲間から聞いたという話を元に、この地下街に大量の阿片 を流そうとしていた者らを突き止めることにした。
一方、焔 の方でもここ半年の間に出入りした者すべての洗い出しに掛かっていた。地上世界から食料品や日用雑貨を運んで来る業者はもちろんのこと、地下街から出る塵の収集業者、訪れる客に居住区の住民まで蟻の這い出る隙間もないほどに徹底した調査が進められていく。とはいえ、いつ誰がどんな形で阿片 を持ち込んだのかを突き止めるのは容易なことではなかった。だからといって調査をやめるわけにもいかない。例えどんなに小さな糸口であっても探し出さないことには始まらないのだ。
そんな中、李 とロナルドらは一等最初に遊興街で気が触れた従業員を出したとされるクラブを当たってみることにした。既にその者は店を辞めて地下街を出ていったとのことだが、今現在は地上の街のどこに住んでいるのかも含めて、阿片 の混入ルートを追うことにする。
その結果、居場所は何とか突き止められたものの、当の本人を訪ねても既に薬に侵され切っていて、まともに話のできる状態ではなかった。
「――クッ、あの様子ではどんな名医もお手上げというところであろうな。という以前に医者にかかる銭さえ惜しがって、阿片 の調達に使いたいという調子だ。あの者は死を待つだけであろう」
「李兄 ……」
「ロナルド、お前さんが殺し屋仲間から聞いた話の中に密売人で知った名はなかったか?」
「……手前は密売人に伝手はありませんが、あの白蘭 が密会に使っていたホテルでしたら心当たりがございます」
現にロナルド自身が冰 の暗殺を請け負った際にもそのホテルで彼女との情事を重ねたからだ。
「李兄 ――あの女が密売人の男たちを抱き込む手立てとして、色を使った可能性は高いと思われます。正直なところ色以外で密売人を動かせるとすれば、手っ取り早いのは銭ですが、あの女がそれだけの大金を持ち合わせていたとは思えません。となれば――身体を使って言うことを聞かせたとしか……」
「なるほど――。ではその密会に使われただろうホテルを当たってみるか。もしかしたらフロント係が白蘭 と密売人の顔を覚えているやも知れん」
早速にホテルへ向かおうとした時だった。焔 の側近である一人が血相を変えて李を捜しにやって来たのだ。
「李兄 ! 大変です! すぐにお戻りを……ッ」
地下街が占拠されました――!
その報告に李 もロナルドも蒼白となった。
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