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 当然だが、遼二(りょうじ)も――そして紫月(ズィユエ)も酔芙容も驚いたに他ならない。 「阿片(あへん)だって……? いったいいつの間に」 「バーやクラブ、それから飲食店が軒を連ねる遊興地区にはほぼ蔓延の兆しが見え始めているようだ。お前さん方の遊郭街の状況を聞きたい」  この九龍城砦地下街は大きく四つの街区に分かれていて、ひとつはバーやクラブ、ホテルに飲食店が集まっている遊興街。もうひとつは紫月(ズィユエ)らのいる遊郭街だ。(イェン)遼二(りょうじ)の邸のある街区には巨大カジノがあり、残る四つ目の街区はこの街で生計を立てている各店のオーナーや従業員たちが暮らす居住区となっている。かつては(ウォン)老人と(ひょう)もそこに暮らしていた。生鮮食料品や日用雑貨を売る商人たちも暮らしており、電気工事士や大工、左官職人なども揃っている。警察や消防などの機関も整っていて、頻繁に地上へ出向かなくとも生活に不自由しないようになっているのである。  現段階で阿片(あへん)が蔓延し始めているのは四つある街区の内のひとつ、バーやクラブが集まる遊興街といわれる場所である。 「ん――、正直なところ絶対とは言えねえが、今のところ男遊郭で阿片(あへん)の話は耳にしたことがねえな」  紫月(ズィユエ)が腕組みをしながら言うと、女遊郭の頭である酔芙容もまた同様だとうなずいた。 「そうね、私たちのところでもそういった話は聞いていないわ。遊郭街には大門があって、そこをくぐるときには一応身に付けている物の検査をするようになってるでしょ。だからまだ入り込んでいないのかも知れないわ」  そういえば(イェン)遼二(りょうじ)(ひょう)の捜索の為に身分を偽って、一等最初に遊郭街を訪れた際もそうだった。手荷物の検査はもちろんのこと、身なりなどもチェックされ、検問所のようなところで割合厳しいと思える検査を受けたことを思い出す。 「その点、バーやクラブのある遊興街では逐一チェックは行っていないものね。ある意味、気楽に出入りできるわけだから――」  とにかく遊郭街には未だ広がっていないらしいということは胸を撫で下ろすところだ。 「カジノの方はどうなのかしら」 「うむ、カジノは俺やカネの邸がある街区だ。これまでのところそういった話は入ってきていない」  だから気付くのが遅れた――というわけなのだが、(イェン)からすれば自身の管理不行き届きと責任を感じているようだ。 「ということは、遊興街が根源ということか。(イェン)、俺の方では至急出所の調査に当たろうと思う」  遼二(りょうじ)が組員たちと共に阿片(あへん)が入り込んだルートを突き止めるという。 「すまぬな。任せる。俺はここ三ヶ月ほどで地下街へ出入りしたすべての者の履歴を洗う。人に限らず物流含めてすべてだ。と同時に、阿片(あへん)が持ち込まれたのは客からという可能性も考えねばならん」  (イェン)遼二(りょうじ)は阿片の入り込んだ足跡を追うことにし、紫月(ズィユエ)と酔芙容の遊郭街でもより一層厳しい検閲態勢を敷くこととなった。
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