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第1話【第一章】
青木 朔也(あおき さくや)は苦学生だった。裕福な家庭に生まれた訳ではなかったので、大学院の学費は奨学金制度を利用し、家賃や生活費、その他もろもろはアルバイトで稼いでいた。
法科大学院では既修者コースで弁護士になるために司法試験合格を目指して勉強している。
4年制大学を卒業したわけではなく法律科、司法試験コースを設置している専門学校から法科大学院へ入った。大学と比べると、授業が安く特待生制度が利用できたからだった。
生活費はもちろん自分で稼がなくてはならない。手っ取り早くお金になるのはやはり夜の仕事だ。
かといって接客業の中でも、女性のホステスや嬢のいるような場所は自分にはハードルが高い。
朔也は学校の知り合いから紹介されたバーで、カクテルソムリエの資格を取り、バーテンダーとしてアルバイトをしていた。
新宿にあるこのバー『PROBE』はシンプルで落ち着いた内装の。オーセンティックバーだ。
少し年季の入ったバーカウンターには 銀杏(いちょう)の1枚板が使われ、その上に吊り下げ式のペンダントライトが温かみのある優しい灯りで大人の空間を演出していた。
なにより客層もよかったし、イケメンマスターは信頼できる良い人だった。
看板や目印がないので、みつけ出すのに困難な細い通りの奥にあり、知る人ぞ知るといわれる隠れ家的存在で、客との程よい距離感も人気の落ち着けるバーだった。
朔也はここでアルバイトを始めて4年目になる。
常連客も顔を覚えてくれ、たまに女性のお客さんから口説かれたりすることもあった。けれど4年目ともなると、そういう客にも上手く対応できるようになった。
カウンターを挟んでの接客だから、常に感じよく、そして一定の距離を保つようにとマスターからは言われていた。
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