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第2話

朔也の最近の悩みの種は、常連の川端さんというお客さんの事だった。 このバーは新宿2丁目に近いという事もあって同性の恋人を求める人も多くやってくる。 ジェンダレスなこの時代、ゲイを差別したりすることはなかったが、出会いを目的にしたバーではないので、あからさまにナンパ目的な客はそれとなくマスターが注意をした。 川端さんは30代半ばで仕事はアダルトグッズの営業だ。新しい大人のおもちゃが発売されると朔也に試してみてと持ってくるようになった。 お客さんだから無下にもできず、きっぱりと僕は使いませんと断った。 しかしマスターは「試しに僕が使っちゃうかもしれませんよ」と川端さんに冗談っぽく言いながら、頂きなさいと言った。 「まぁ、もらうだけもらってよ。今度の凄いんだ相手をその気にさせるスーパーデラックス媚薬」 惚れ薬?精力剤?頂くのは良いんだけど、朔也の部屋には川端ボックスなるものが存在し、あらゆる大人グッズが目いっぱい溢れそうになっている。 狭い部屋を圧迫するその商品たちにいい加減迷惑している。 「……なんだかそれ、体に有害な気しかしないんですが」 「大丈夫!ちゃんと試験済みのやつだし今度新しく発売する時には、販売価格は1本1万円の超高級品ドリンク」 そうですかと笑顔で答え、可愛い袋に入ったその怪しい飲み物を受け取った。 お客さんのプレゼントは、よほど高額なもの以外は喜んで受け取ってといわれてるが、体に入るものは流石に恐ろしくて、間違いなく使わないだろうと思った。 使用後の感想を求められることはないが、いつか二人で試そうねと川端さんから必ず言われるので、その都度顔が引きつってしまう。 朔也はノーマル、いわゆるノンケで恋愛対象は女性だった。 「ありがとうございます。もう1杯飲まれますか?」 「冷たいな……まぁ、朔也君は高嶺の花だからねそのクールさも魅力だよ」 「僕は女の子が好きなんで、その世界はまだまだ勉強不足です。すみません」 いくら冷たくあしらっても、店に通い続けてくれているので、このプレゼントに困ってはいるが、川端さんは上客だった。

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