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27.自分のSub(3)

 今の颯斗を安全に救えるのは、自分のような異常なDomではない。 「Domにちゃんとプレイしてもらったほうがいい。わかるか?」 「はい……」  颯斗はまたこくりと頷いた。 「金沢呼ぶから、ちょっと待てるか」  自分で言って、自分で苛立った。  金沢であれば信頼できるし、あのよくわからないクソジジイよりはずいぶんましだ。  わかっている。だけど、どうしようもなく苛立つ。  しかし颯斗のためを考えたら、金沢にプレイをしてもらうのが一番安全だ。そう思って、善はスマホを取り出した。すると突然颯斗がその善の腕を掴んだ。 「せ、せんぱいも、せんぱいだって、Domですよね?」  颯斗の言葉に、善は息を飲んだ。 「ダメなんですか? せんぱいは、俺とプレイするの、イヤなんですか?」  颯斗は息苦しさからさらに肩を跳ね上げ、目からボロボロと涙を滲ませている。 「俺はダメだ。無理、今はたぶんやばい」  善は目を閉じ、天を仰いだ。  湧き上がる感情を抑えるようにその視界を自らの手で覆う。 「なん、な、なんでっ、ひど、ひどいです、せんぱい……ひどいっ、ひどいっ」  混乱したまましゃくり上げ、颯斗は善の肩に縋りついた。善の胸元に額を押し付け、シャツの袖を握りしめている。 「ひどい、俺は、せんぱいじゃなきゃイヤです、せんぱいじゃないなら、こ、このままでいい!」 「颯斗……」 「ひ、ひどっ、せんぱい、なんで今日浴衣じゃないんですかっ、うっ、ひどっ、観たかったせんぱいの浴衣……」 「いや、もう言ってることめちゃくちゃだぞ」  言いながら、善は颯斗の背中を撫でた。 「浴衣は、また来年着てやるから」 「ダメ、ダメです来年は、ダメです、今じゃなきゃ」 「んだよ、無茶言うなよ」 「お、俺には、来年とか、ない、ないんです……」  その言葉に善は背中を撫でていた手を止めた。  いつも具合が悪そうな顔、心配性な母親、机の上の薬。  やっぱり何かを隠しているのだろうか。隠そうとしていることに苛立つ。  なぜ苛立つのか、善はまた考えた。答えにはすぐに辿り着いた。颯斗が自分のSubだからだ。Subの全てを掌握して支配したいのは、Domである自分の|性《さが》だ。  そして次に考えるのは、どうやったらこの目の前のSubの全てを支配することができるのか、だ。   「せんぱい、お願い……俺、せんぱいがいいんです。浴衣は諦めますから……だから……」  溢れる涙を止められないまま颯斗はゆっくりと涙でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。  善はゆっくりと目元を覆っていた手を滑らせ、口元に当てた。その瞳を颯斗に向ける。 「せんぱい……お、お願いします! 俺と、プレイして……ください」  指先で自分の口角に触れた。思った通りだ。  泣きながら自分を求める颯斗を見下ろし、善は口元に抑えきれない不気味な笑みを隠していた。 「俺、言ったからな? ダメだって」 「う、は、はいっ……ご、ごめんなさいっ」 「お前が、言ったんだぞ? プレイしてくれって」 「はい、はいっ……ご、ごめんなさい、ずうずうしいこといって……ごめんなさい」  颯斗は言った。  善はその顎を掴んで顔を上向かせる。  露わになった善の表情を見た颯斗は、驚いたように眉を上げてその目を見開いた。 「せ、せんぱ……」 「なあ、もっと、泣かせていい?」  善の中にあった黒い感情が堰を切ったようにあふれだした。

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