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番外編 内緒のバイトとやきもちと1 side卯乃

 夏休みに入ってから深森とお付き合いを始めたのはちょっぴり残念だったと卯乃は思う。もしも夏が始まる前に恋人同士になっていたのなら、彼に合わせてバイトのシフトを組めたはずなのだから。  今年の夏は転勤先に行ったばかりの両親も帰ってこないし、姉は嫁ぎ先の実家へ里帰り。兄は秋からこちらに戻る予定なので夏に帰省はしないと家族バラバラの夏を過ごす予定だった。  だから卯乃は帰省する同僚の分まで、めいいっぱいバイトのシフトを入れてしまっていた。  深森とたっぷり抱き合って眠りたくても、互いに翌日は予定がある日々が続いている。  初めての晩の翌日はバイトを休んでしまったこともあり、ああいう不真面目なことは流石にもうできない、やっては駄目だと自戒してる。  深森も理解は示してくれて、あれ以来最後まではしていない。  合宿から帰ってきた後も練習三昧の深森は夜な夜な卯乃の元に通ってくれる。二人、ベッドの上にくつろぎながら推しチームのサッカーの試合を見る。色々解説をしてくれる深森だけど、一緒にいると卯乃は触れて欲しくて仕方なくなってしまって困る。 (深森の手、大きくて指が長くて、爪の形も綺麗。かっこよくて大好き)  彼の胸に背中を預けて抱きしめられながら、大きな掌にすりすりしたり、甲にキスを落としたりと悪戯を始めてしまう。 「卯乃、誘惑しないで」  すると深森は苦笑しながら卯乃にそっと触れてくれるのだ。大きな手が卯乃の肌の滑らかさを確かめるように胸を探る、あんっと小さく吐息を漏らすと、顎をすくうように持ってキスをされる。貪るようなそれではなくて、あくまでも壊れ物を扱うように優しく唇に唇で触れながら、疼く卯乃の腰のものを手のひらにすっぽり包んで摩ってくれる。 「俺だけじゃ、だめ……。深森も」 「俺はいいから、卯乃。我慢しないで」  甘く囁かれ蕩けさせられ彼の腕に抱かれて眠るのは多幸感でいっぱいになるが、昼間のバイトの疲労感も手伝って、卯乃はすぐに眠くなってしまう。  気が付くと朝になっていて、身支度をした深森はもう寮に戻る直前になっていることが多い。  ごめんね、と謝ると「俺で卯乃が気持ちよくなってくれるのが嬉しい」と微笑みながら頭を撫ぜてくれる。  深森はそういうけれど、彼にばかり我慢をさせてしまっているのは申し訳なくも思うのだ。  百点満点の彼氏である深森は少しでも卯乃との時間を過ごそうとバイト帰りに迎えに来てくれようとしている。だけど卯乃はとある事情から何度もそれをお断りしている。  なぜならそのバイトは……。

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