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番外編 内緒のバイトとやきもちと13 side卯乃

 しかし深森は動きを止めない。獲物を味見するように舐め上げられた後、ちりっとした痛み。次から次に赤い花が咲く。 (明後日もバイトだって、深森も知ってるはずなのにぃ)    深森は熱い息を漏らしながら、片手で太腿を掴み、もう片手で卯乃の尻を揉みしだきながら、わざと目立つような場所に愛欲の印を刻みつけていく。 「あっん! いたいよぉ」  そういえば最初にしたときも深森は脚に口付けとあとをつけてきた。あの時は足の内側だったから翌々日のバイトから何とか誤魔化したけど、今日は本当に執拗で膝の上から太腿の真上、際どい脚の付け根までも辿るように痕を残される。 (太腿へのキスは、相手を支配したいって意味だって。本当かな……)  恋人の奥底に眠る、日頃押し殺した欲望を垣間見た気がした。 「深森ぃ!」  名前を呼んだら牙を見せつけ、下を舐め回しながら、綺麗な翡翠色の双眸が卯乃を射竦めてきた。 「このまんま、頭から全部、食っちまいてぇな。そしたらお前のこと、誰とも分けなくて済む」  ゾクゾクゾクっと怖気が駆け上がる。 (オレのこと、食べちゃいたいぐらいに求めてるんだ)  駄目だってわかってるのに、深森の自分への執着に身を焦がされ、狂おしい気分に流されてしまいそうになる。 「ダメ、だってばぁ」  卯乃は小さな涙声で懇願した。片足で立っていられなくなって、手首を戒められたままの手を深森の肩につき再び勝ち気に爪を立てた。それで体重全てを深森の肩に預ける姿勢になったが、逞しい彼はビクともしない。シャワーの温い湯が深森の広い背中で弾けて足元に落ちていく。卯乃のこぼす涙もまた、その流れに沿って消えていった。 「意地悪しないでぇ、制服、着れなくなる」 「じゃあ、着んなよ」 「ひうっ」  脚に牙を立てられ、喘ぐように零れた悲鳴に、ようやく深森は動きを止めた。  今度はすでに緩く立ちあがっていた卯乃自身に熱い吐息がかかる。ぐいっと腰をもって軽々と抱き上げられると、今度は脚を大きく開かされたまま、湯船の縁に座らされた。  卯乃の両膝に載せられた手が、縋るように掴んでくる。首を垂れる深森に卯乃は早鐘を打つ心臓を掌で抑えたまま見下ろした。 「俺をこんなにしてんの、お前だからな。卯乃」 「え……」    恋人にらしくない台詞を吐かれ、胸がどきり、とした。 「お前のせいだ」 「俺の、せい?」 「誰にも、触らせんなよ」  最後の呟きは哀願に似て消え入りそうで、卯乃はこんな声を上げる深森を初めて見た。  ピッチで雄々しくボールを蹴り上げる深森。あわてんぼうで色々な失敗をしてしまう卯乃を冷静に優しくリードしてくれる深森。  遠く離れた故郷から単身都会に出てきて、努力して今のポジションを勝ち取った深森。 (深森っ……、イカ耳になってる)  ぎゅうっと腰を引き寄せられ、顔を隠すように抱きつかれる。まるで溺れる人がしがみつくよう必死な仕草に、卯乃は言葉を失ってしまった。  いつもはフサフサピンッと立っている立派な耳が弱々しく伏せられ、王様みたいなふっさりしたしっぽも水に濡れてべしょぺしょで、力無く床に伏せられていた。  雄々しい見た目、強靭な身体を持つ深森だけど、繊細なところもある。それを必死に隠そうとする誇り高い部分も愛してる。 「ごめん!」  反射的に謝りなんとか枷になっていたTシャツを取り去ると、慌てて深森の頭を腕の中に抱えて髪をなぜた。 「……いや、違う。お前は悪くない。卯乃はただ普通に仕事してるだけ、嫉妬なんて馬鹿げてる。囚われる自分が嫌になる。こんなん、馬鹿みたいだろ、俺」 「深森」 「飛びかかってお前に触れるやつ、みんな引き裂いてやりたいのを、沢山、何度も、我慢したんだ」   深森が顔を上げたのでどんな顔をしているのか見たくて、腕を緩めた。卯乃の足元に跪いて膝がしらに口づけてくる。見上げてきた瞳は欲に濡れ、だけど美しくて卯乃はもっと泣きたくなった。 「気が狂いそうだった」    話をして、気持ちを通じ合わせて、今すぐ深森の心を救い上げないといけない。 (抱きしめてあげたい、深森の心ごと、ぎゅうって) 「どうしたら、機嫌直るの? 深森が欲しいものなら、オレなんでもあげるよ?」 「……」  見上げてきた深森の美しい瞳は自分でもどうしようもない程の感情の波に揺れていた。 「オレのこと、好きにしていいから。そんな顔しないで。ほら、みて」    

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