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「…いや、俺は…」
ザァーっと大きな風が怜と蓮の間を、桜の花弁を巻き込みながら通る。
「わっ…あははは」
びっくりして思わず閉じた目を開くと、蓮の髪に花弁が一枚ついていた。指で摘んでとり、ふぅ、と息を吹きかけて飛ばした。
「帰ろっか」
「うん!」
蓮の柔らかい視線と笑みをみて、大きく頷く。勢いが良すぎるあまりぐらりと視界が揺れふら、とするが前を行く蓮に駆け寄る。
「夜ご飯なにがいい?」
「オムライス食べたいなー」
「ふ、いいよ」
暗くなった帰り道には怜と蓮しかいない。二人だけの世界みたいで、怜は伸ばされた蓮の手をぎゅっと握った。倒れたけれど、普段と変わらない幸せな日だった。怜には蓮が、蓮には怜がいるだけで良かった。
知らぬところで歯車がひとつ、狂った日。
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