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「嶺二、これで何回目!?」
レッスン室のドアを開けるや否や、|四ノ宮 遼《しのみや はるか》は声を荒らげた。入口正面を一面覆う姿見は、肩で息をする自分の姿と、この怒りの当本人が柔軟をしている様を映している。
「んー…はる?なに怒ってんだよ」
開脚を続けたまま、顔だけをこちらに回して返事する|嶺二《レイジ》はそのうち白髪まみれになりそーだとか言いながら笑う。その緊張感の欠けらも無い様子に頭痛をおぼえた。
眼鏡を外して|顬《こめかみ》を押さえながら言う。
「はあ…文秋にまた抜かれてるよ…」
「あ?誰との?」
「誰とのってことは…まだ他にも!?…ゴホン、園田ジュリだよ」
「んん?あー…一回だけでいいからって泣いて縋るから抱いてやったのに、調子に乗って彼女面してきたやつじゃん…面倒臭いから全ブロしたら家凸してきたやつ。怖すぎだろ」
「怖いのは嶺二の学習能力の無さだよ…」
反省の色が見えない嶺二に、沸点に達していた頭が一周まわって冷えてきた。今は、伝わらない怒りをぶつけて無駄な時間を浪費している場合では無い。
今、遼がやらなければならないことは、記事と事実の擦り合わせと今後の対応を考えることだ。
「園田ジュリは結婚を前提とした真剣交際しているとコメントしてるみたいだけど嶺二の言い分は?」
「いやいやいや!そんなわけねーよ、誰がストーカー女と真剣交際するかよ、そもそもタイプじゃねえ」
写真の画角や文面からも伝わる園田ジュリの嬉々とした物言いから、この件は園田ジュリ側のリークだと推測する。
グラドルである彼女にとってこの記事が出ることは、名を売るという芸能界に生きる人間にとってなによりも重要な役割を果たしてくれるので願ったり叶ったりだろう。
「この写真いつ撮られたかわかる?」
怒りに任せてクシャクシャになっていた三日後発売予定の文秋の該当ページを提示すると、嶺二は柔軟をやめて膝立ちでこちらに寄ってきた。
「ん?んん〜…これ俺ん家?てことは多分家特定して|家《ウチ》こられた時か、抱きついてきたし」
「そっか…わかった」
相手の行動も倫理に反しているし、記事の内容も事実とは大きく異なる。これから報告、事務所の方針を会議で話し合って出版社との掛け合いに相手との話し合いと、何より重要な取引も。
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