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…やることが多い。
はぁ、と大きなため息をひとつ零して眉間を押さえていると、両頬に手を添えられて顔を持ち上げられる。途端、視界は嶺二の整った顔でいっぱいになる。
綺麗なだけのアイドルなら五万といるけれど、嶺二はそんないい子ちゃんではなく、野蛮で危ない雰囲気を纏っている。ファンの言葉を敢えて使うなら"抱かれたい男ナンバーワン"とやらだろう。
「でも、はるがなんとかしてくれるんだろ」
色素の薄い瞳が、それに似合わないほど強い光を帯びる。猫のような鋭い光。
普通、記事に規制をかけることは特別な理由、例えば扱いの難しいLGBTQや故人に対してなどのセンシブルなもの以外では不可能に近い。けれど遼は、これまでの嶺二のマイナスな記事が世に出ることを阻止してきた。
文字通り、全てを犠牲にして。
これまでのことを思い出すと胃がキリキリと痛くなって、無意識に服の上から胃をさする。
「…そうだよ。だから嶺二はもうちょっと自重して」
嶺二の目に見つめられて、その願いを断れる者がいたら是非とも見てみたい。彼の瞳に映った途端、選択肢はYes or yes。否、という言葉がその意味をなさなくなる。
それに、そもそも遼はそのつもりだった。嶺二のためにここにいるのだから。
「ごめん…ありがとう。俺、はるがいなかったらきっとまたすぐ干されてたよ」
自分の奔放な性格を自負しているのか、自嘲気味に笑う嶺二の表情ひとつひとつに目を奪われる。アイドルとして、身体の全てが商品である指先まで気を使われた嶺二の手が遼の黒髪を梳く。
「そう思うなら女遊びはもうやめてくれる?」
「…努力する」
「……」
思わず嶺二を睨む。うん、と返事をしないあたり、やはり嶺二は反省していない。いやいや、分かっていたけど。しおらしい表情だって、演技だって分かってたけれど…。
はは、と誤魔化すようなわざとらしい笑みを浮かべる嶺二を見ながら溜息をつくも、彼を憎む気持ちは一切湧いてこない。
だって、何より嶺二を一番輝く星にしたいと願っているのは遼なのだから。
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