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 車をマンションの地下駐車場に停めた遼は、エンジンを切ってハンドルに両腕を乗せて黄昏れる。  しばらくぼう、とフロントガラスの先にある何も無いコンクリートの壁を見つめていたが、ふぅ、と息をひとつはいてボンネットの上に置いていたスマホを手に取った。電話帳から目的の人物を選択して耳元にスマホを寄せると、コールが聞こえる。  二年前までは掛かってくることの方が多かったのに、今では遼がこの音を聞くことの方が圧倒的に多い。三回ほどコールした後、遼のどんよりとした声とは対象的な、カラッとした明るい声が聞こえてきた。 「はーい。遼?今日はどないしたんー?」  軽い。眩しい光のような声が鬱陶しい。聞き慣れた関西弁で話す|葛城 迅《かつらぎ じん》の声に反射的にスマホから距離を取る。 「あれ?遼ちゃーん?」 「……迅さんお疲れ様です。夜分遅くにすみません」 「全然ええでー、ちょうど暇してたし」 「…すみません」  嘘だ。迅さんが暇してる姿なんて、何年も一緒にいたのに一度だって見た事がない。 「ええよええよー。それより遼の声聞けて嬉しいわあ。仕事は順調?まあ遼が俺に電話かけてくる時点で順調じゃないんやろうけど」  はは、と矢継ぎ早に話す迅さんに笑われて項垂れる。 「…その通りです。早速で申し訳ないのですが、迅さんに仲介して欲しくて。スパンが短くてすみません。」 「ええよー、誰をご所望かなー?」 「文秋編集長の木島さんです」 「あー、また?撮られたの?リーク?」 「両方です」  どんよりとした声でそう言うと、迅さんがまたゲラゲラと大笑いする。苦行だ。 「…はー、笑った。木島さんな、分かった連絡しとくわ。多分あっちもその気やろうしな」  時間はいつでもいい? といつもながら配慮までしてくれる迅さんに頭が上がらない。 「すみません…本当にありがとうございます」 「ええよー、…ゆうても対等な取引やしな」  ほなまた連絡するわー!と最後まで明るい迅さんの声に、ありがとうございます。よろしくお願いしますと返して電話を終えた。

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