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第1話

あの日はそう、中学2年の夏休み やっと長期休みに入ったばかりだというのに外は生憎の土砂降りで窓を打ち付ける酷い雨が俺には何処か遠く聞こえていた (雨の音、、、酷いな、、) 昨夜から泥のように眠っていた身体を起こし ギーっと鈍い音を起てながら窓が開く 窓辺に置かれた馴染みのあるパッケージとコンビニの100円ライター それを徐に手に取ると箱を軽く振って中から飛び出した仲間外れを口にする シュッ、、シュッ 石を削る音が響いてジュッと紙と葉が燃える音と共に咥えた先が燃え広がると口内にはいつもより重い煙が充満した 「ぃっ、、てぇ」 いつもの日課、いつもの動作 深く息を吸い込んだ時微かに動かした頬に普段とは違う痛みが走る 反射的に噛み締めるように出た言葉と吐き出すような語尾に思わず頬に触れた 「はぁー」 長いため息と共に吐き出された煙が網戸の向こう側に吸い込まれていく 時々温い風に乗って運ばれてきた雨粒が顔を濡らしていった 一服し終わった俺はそこらじゅうが軋む身体を動かす用に伸びを1つして名残惜しい布団に別れを告げた 無機質な部屋に置かれた小さな机 その上にポツンと置かれたNikon D5600 慣れた手つきで持ち上げ、カチカチとデータを確認するとそこには見知った写真が何枚も記録されている データの確認作業が満足に終わると何処か安堵の気持ちに包まれた ジャーーッ 勢い良く水道から流れる水が洗面器にぶつかって跳ねる 1階に降りてきた俺は顔を洗い、歯を磨いて先に焼いておいた食パンをトースターから取り出す 「あっつ!!」 熱さで手を離した食パンが一瞬宙に浮き この熱さを口に運び込むのは無謀だと判断した俺は渋々お皿にトーストを乗せ席に着席した カチッ ポケットから取り出したスマホに電源を入れると待ってましたとでもいうかのように振動して昨日から溜まった通知を知らせている (いくらなんでも送りすぎだろ、、、) 想定以上の通知に何かあったのかと気になりつつ画面上部に表示されている数字が目にはいる 時刻は15:46を表示していた 外は土砂降りな事もあって普段より室内は薄暗く自分は思っていたよりも寝こけてしまったらしい パリパリッ トーストを1口齧るとバターの塩味が脳を覚醒させる パン片手に薄暗い部屋で唯一発光しているスクリーンを眺めながらタップやスクロールを繰り返して飽きてきた頃 (そういえば返事返さないと、、、) 思い返したようにスマホを1番稼働させているであろうメッセージアプリを開いた (じゅ、、13件!?) アプリを開いて1番上には13件の通知を知らせる赤いマーク、想定より多い通知に少し気構えて画面をタップする 開かれた個人チャットにはいつもと変わらない友人の脈絡のない話が一方的に綴られていた (う〜ん、了解っと、スタンプは、、これでいっか) 適当な返事にスタンプを加えて送信する ネットサーフィンと呼べるものも終了してのんびりとした食事も片付けるとダイニングテーブルに置いたカメラを首から下げる 外の雨は止むことを知らずに強くアスファルトを打ち続け俺はそんな雨の日が嫌いじゃなかった カシャッ 人が消えてしまった様な街道 ファインダーを覗いては立ち止まり、シャッターを切る音と雨音だけがぽつんと一人佇む空間に響く 家からも程よく離れた位置でガサゴソと上着のポケットから順に乱雑にまさぐりカサッというビニールの触覚を手繰り寄せると口元に運んだ スーッっと息を吸う度ジリジリと燃える煙草の先、口から零れる煙の行方を眺めて目線が頭上に上がる 「ッ、、、、狐の嫁入りだ」 今の今までの最悪な悪天候 何層にも重なってそうな程、重厚な曇天雲の隙間からオレンジ色の光が射す 慌てて地面で右手の火の粉を消すとずっしり重たいカメラを持ち上げシャッターを切った ジーッと胸元に寄せた指先でファスナーを下げ上着の中にカメラを押し込むと錆びたビニール傘をギシギシいわせながら閉じて雨も気にせず線路沿いを駆け出した ビシャビシャと地面を踏みしめる度跳ね上がる水飛沫 温い風が頬を切って土の匂いが鼻を突く ハァハァ...... 開いた口には雨水が入り込み上がる呼吸と心拍、身体を打つ雨その全てが酷く耳に届いていた 木漏れ日を目指し線路沿いを一直線に駆けると海へと続く橋の手前までやって来ていた (この雨じゃ川も海も荒れてるのかなぁ、、、) 目先に入ってきた白藍色 近くの海から別れる川の上には遠くからでも目に入る程鮮やかに塗装された橋が架かっている 家からは十数分、いつでも行ける海と山 産まれてから何度も何度もこの道を歩いている 今日だって変わらない、、、そう思っていた 「っ、、、、え?」 この日、十四年の人生の中で人間は本当に驚くと言葉が出ない事を初めて実感した ゴクリと息を飲んで橋の袂を凝視する、この間俺は息をするのも忘れ肩を怒らせ掌には指が白む程目一杯力を込めて握り締めていたと思う 線路沿いを走ってきた俺とは別に川に沿うように造られた土手、そこに彼は天を仰ぐようにして落ちている 何かやばい物を見付けてしまった、そう思った ドッキンドッキンと身体が音を起てる 次に何故その行動を取ったのか自分でも曖昧なまま相手に伝わらないうちに慎重に息を殺してずっと鳩尾に当たっていた物を取り出すとシャッターボタンを押した (生きてる、、、よね?) ファインダーから顔を上げると一気に世界が動き出した様に身体に冷たい風が流れ込んで熱くなった身体を冷まして行った アスファルトに横たわる少年は未だに微動だにせず呼吸をしてるかさえ怪しく感じた 雲の隙間から溢れ落ちた夕陽が真摯に彼に降り注ぎその光に反射した雫がキラキラと耀いてその場だけ時が止まって見えた (スポットライト、、、) 此処が舞台だとしたらきっと彼の独壇場だろう イレギュラーな事態、映画のワンシーンの様な幻想的な場面が目の前に突然現れても俺から出たのはそんな陳腐な言葉だった 暫く眺めていると高揚感も身を潜め論理的思考を求め始める (てか本当にこんな場所で雨の中何やってんだこいつ、寝てんのか?) こんな周りに人気もない土砂降りの日に地面に横たわる頭の可笑しな人間 (酔っ払い、、、?) 泥酔でもしているのか 近づく程にその全貌が明らかになる、薄い身体に目を引く真っ赤な頭髪 人が近寄る足音にも彼が起き上がる気配はない (俺よりも少し年上位か?) 「ぅ、、、、ゔっ」 彼の傍に立ち止まり上から見下ろすように視察していたその時、耳を澄まさなければ聞こえない程静かな呻き声が聞こえたと思えば盛大に噎せ返った 「ゴホッゴホッ」 「うぉっ、ビビったぁ生きてんじゃん」 驚いた俺は半歩後ろに後ずさる 当たり前と思える事すら疑いたくなるほど彼の顔は青ざめて血の気が感じられなかった 「おーい、お前こんな所で何してんだよ」 恐る恐る声を掛けてみるも眉毛をピクリとも動かさない 渋々地面に膝を付き軽く抱き起こし、肩を揺さぶってみるが反応は変わらなかった 「はぁ、、どうすんだよ」 呆れて辺りを見渡す 「バイクか?」 土手の斜面に生えた草木の中に赤と黒のバイクが1台転倒している 腕の中に横たわる彼に視点を戻すと水を吸収し色を濃くしたアスファルトに赤い液体が広がっていた 「んー、、よし決めた」 小さく呟いた言葉、それに応えたのか地面から忽然と一陣の強烈な風が舞い上がり周囲の木々を掻き回す、扇動された葉はわざとらしいざわめきを2人に送っていた

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