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第2話

夕陽に反射している赤いボディーを優しく撫でて鍵を抜き取ると別れを告げた 「ちょっとまっててね、後で迎えにくるから」 車体の傍に傘を添えて気持ちを引き締める 「んぐっ、、、」 普段学校でじゃれて他人に伸し掛るのとは大違いだ、天候は生憎の土砂降りに加え意識の無い人間ましてや経験も無い素人が人を持ち上げる事がどれだけ困難か実感する (人生初の人命救助がハードモードってかぁ?) 最早こんな状況ゲームの中の勇者にされて無理難題な困難に立ち向かわされてる気分だ しかし今此処に居るのは眉一つ動かさず全てを簡単に熟してしまう超人造、なんかではなく唯の非力な少年1人なのだから こんな所で退けない俺は悪戦苦闘の末、起こした上体を何とか背負い引き摺るように前へ踏み出した ズルッ、、、、ズルッ、、、、 「はぁ、、はぁ、、、おもっ」 身体が熱を持って汗が噴き出す 上がった体温も背中でヒンヤリと濡れそぼる彼に全て奪われ、行きとは打って変わってあんなにも降り注いでいた夕陽も既に沈んで雲に姿を隠し薄暗く染まる街並みに心は焦りを覚えた 途中途中止まる足もゴーーーーッと騒騒しい音を立てる電車も車も俺らの存在なんて無いかの様に風を切って真横を颯爽と通り抜けて行く (あと少し、、) 然程遠くない我が家が目前に迫ると安堵のため息が漏れる 自分の体力の限界を感じ始めていた事も背中の重みとは有耶無耶に道中もじっと荷物の様に運ばれるだけの男のか細い呼吸が今にも止まるんじゃないかと心配したからだ 「ふぅー、、これ明日絶対筋肉痛だろぉ」 荒い呼吸を整え、ここまでやってきた達成感に安堵の泣き言を零す 背中の男を何とか片腕で支えガチャガチャと家を開けた (とりあえず風呂場だな) このままの状態でベットに寝かすわけにもいかないので玄関から浴室まで2人分の水滴を垂らしながらをずり落ちる男をときおり抱え直し、ようやく浴室に辿りついた (暖房つけて湯船も溜めるかぁ) 浴室に着くと男を壁際に座らせすぐさま暖房を入れる 湯船も貯まるようにボタンを押すとささっと自分のびしょ濡れの服を洗濯機にぶち込み男の服に手を掛けた 「おーい、とりあえず脱がすぞ」 本日2度目の呼び掛け 同性の男同士、裸になんてなんの価値も無いがなんと言っても多様性の現代、返事がない人間にも一応礼儀と許可は必要だろうと声を掛けた俺の心遣いにこの男はせめても起きたら感謝して欲しいところ‪である 「うわっ、、、」 上の服を脱がし終えた頃には思っているよりも情けない声が出てしまった (こいつまじで何したんだよ、こんなの病院で何針か縫う傷だぞ、、、) 目の前に現れたのは脇腹辺りにパックリと大口を開けている生々しい切り傷だった 傷口は長時間雨に曝されたからか中々グロテスクな見た目になっている (いやぁ軽率に拾って来ちゃったけど救急車呼ぶべきだったか?) 素人判断ではあるがよく観察するとパッと見える限りじゃ内蔵まで届いているような深傷では無さそうだ しかし傷口からは緩やかに溢れる赤い血が青白い肌の上を流れ落ちていく 「病院か、、、今更聞くにしてもこいつ意識飛んでるしなぁ」 腕を組みう〜んと頭を悩ませながらペチペチと軽く頬を叩いてみてもその意識が戻ることはなさそうだ 「はぁ、どうなっても知らねーからな、、、」 疲れて思考力が鈍っていたのか経験知識からくる謎の自信なのか投げやりになった俺は本日何度目かになる盛大なため息をついて怒り気味に許可を取った きっとこのまま出血多量で死ぬなんていう未来よりはいいだろう 湯船には浸かれない男の体をささっと洗い、傷も軽く流してから救急箱を取りに行く 「何しても起きねぇなぁ」 実際問題、相当痛いであろう傷を弄り回されても男は眠ったように穏やかなままだ (何かこれじゃあ俺がやったみたいだなぁ) 風呂場は赤く染まり俺の手や身体にも男の血がべっとりとついていて第三者がみたら殺人現場と勘違いされそうな惨状である 脱衣場から持ってきたタオルを傷口に押し当て止血しながら男の顔を覗くと貧血からか白く青ざめ温度を感じない (おいおい、俺ん家で、しかもこんな傷で死なないでくれよ) 流石の俺も人殺し呼ばわりされる事も死体を家に置く趣味も性癖も無いので、そっと彼のおでこに掌を重ねると驚く程高い体温に寧ろ納得した (いつから雨に打たれてたのか知らねぇけどそれと傷で熱でも出してんのかぁ?、、、) 目の前に死にかけ男に応急処置を慣れた手つきでしていく、怪我には慣れっこだった 傷がなるべく膿まないようにバシャバシャと消毒液を浴びせて医療用テープをたっぷり使って開いた皮膚を厳重に上下合わせていく 何だか小学生の工作じみている 「こんなもんかぁー?」 上手い事繋ぎ合わせ止めると出血も軽く止まって一段落する、その上から少し苦しいくらいに包帯でぐるぐる巻きにしてやった 「まぁこれで一旦大人しくしとけば傷は塞がるだろ、あーあ、不格好な傷跡になんだろうなぁ」 治癒した肌を思い浮かべて苦い顔を浮かべながらまっ更な包帯に巻かれて消えた傷跡をそっと撫でた 極々丁寧に傷口が開かぬよう男に俺の新しい服を着せ、部屋に運び込みまだ冷えている身体をベッドに寝かせる 気休め程度に布団と毛布でてんこ盛りにしておいた 「あ〜流石に疲れた、、、」 やっと一通りの事が終わった気がして一気に身体から力が抜けた その場に座り込むとフローリングの床がヒヤッと足に触れ、見上げた先にはいつもと変わらない天井がある ただ1つ違うのは、自分のベッドに見ず知らずの男が静かに眠っているという事実それだけだ 「クシュッ、、うぅ〜このままじゃ俺が風邪ひくし風呂入ろ」 ブルっと身震いをして自分の身体の冷たさを思い出すとスクッと立ち上がる (呼吸荒いな、、) 部屋を出る前に静かに眠る白い顔を見つめていると、ふと赤い髪との異質さに2次元や別次元から落ちてきたんだろうか、そんな馬鹿な思考回路を繰り広げ、そっとおでこに手を当てるとあたり前に伝わる異常な熱が彼がこの世に存在していると主張していた 「先、解熱剤持ってきてやるか」 風呂に行く前に水と薬と冷却シートを持ってこようと決めた 「あ"〜〜」 親父臭い唸り声、暖かい湯船が冷えた身体と怒涛の数時間で疲れた身体によく沁みる 自室でスヤスヤ眠る男に冷却シートを貼ってから意識の無いに等しい人間に薬を飲ませる事がどれだけ大変かをまた思い知らされた やっと浸かれた湯船に足先がジンジンと痺れるような感覚を覚える (お風呂から上がったらあいつのバイク取りに行かなきゃなぁ) もう辺りはすっかり暗くなってこの土砂降りの中あの土手に置き去りにされたバイクを思い出す (ていうかカメラも壊れてないか確認したいし) 服の中に押し込んでいたにしても長時間雨に晒された服は沢山水を吸っていてカメラにまったく害が無かったとは断言出来ない、途端に心配になった俺はお湯に癒されるのもそこそこに湯船から這い出すとパパッと着替えを済ませた 「めんどくせぇ」 浴室を出て発した第一声 先程まで見ないふりをしていた廊下の悲惨さに率直な感想が口からでた 文句を言っていても始まらないので手短に片付けを済ませリビングまでやってくるとダイニングに置いたカメラを手に取る カチカチッカチカチッ 「よしっ問題ないな、、、」 本日の行いからくる一抹の不安も払拭され動作確認に問題がないと分かると善は急げとばかりに速やかに玄関へ駆け出した チャリンチャリン 玄関の鍵とバイク鍵、両方を強く握り締め今度は防水対策バッチリに撥水性のある上着を羽織り、ここでもうひと頑張りしておこうと気迫を込めて自らの頬を強く叩いた

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