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第7話

 自分のたどたどしい愛撫でも感じてくれることが嬉しくて、錦はそう言った。だが省吾は揶揄されていると思ったのか、拗ねたように鼻を鳴らす。 「あんたが相手だったら、どこに触れられても反応しないわけないだろ」 「それでも俺は嬉しい」  錦は省吾の割れた腹筋を指先でなぞりながら、下腹部へと手を伸ばした。 どんなに身体を鍛えたところで、そこが男にとって弱点なのは変わりない。大きな手で省吾の性器を包むと、省吾は小さく震えながらひッと息を詰めた。 「ここを触るくらい、お前に抱かれる時もしているだろ」 「そりゃそうなんだけどさ……」  省吾は錦の顔を横目で盗み見るように視線を送ると、恥ずかしそうにすぐ目を逸らしてしまう。  いつもと違う省吾の態度に、普段は表に出ない錦の嗜虐心がくすぐられた。  省吾の性器を包んでいた手を上下に緩く動かす。空いたもう片方の手でその下にある袋を優しく揉んでやると、手の中の性器がぐんと硬さを増した。 「……っ……ぅ」  声を漏らさぬよう唇を噛み締める省吾がやけにそそられる。普段は喘がない省吾を意地でも啼かせたいと感じた。  育っていく性器の先端から透明な液が溢れ出る。錦はそれを塗り拡げるように指先で先端をぐりぐりと刺激すると、まな板の上の魚のように省吾が大きく跳ねた。  省吾は眉間に皺を寄せて必死で快楽に耐えている。その一挙一動を錦は見逃さない。元から省吾の弱点は知っているが、今日はわざとそこを外すように、ぎりぎりのところを攻める。苛烈に攻めてやればあっという間に爆ぜるだろうが、あえてしてやらなかった。  恨めしい目で向けてくる省吾と目が合う。だがやはり、省吾はすぐに目を逸らしてしまった。 「なんかさっきから、よそよそしくないか?」  緊張でも恥ずかしがっているのとも少し違う省吾の態度に、錦は違和感を覚える。  やはり抱かれることを承諾したことに後悔しているのだろうか。省吾が無理をしているのなら、それを強いるつもりはない。 「抱かれるのが嫌になったなら、今なら止めてやれるけど」  錦の雄の本能に火はついているが、まだ引き返せる範囲だ。  だが錦の言葉に省吾は首を横に振る。 「止めなくていい」 「でもお前、なんか様子が違うし」 「それは……」  省吾は目をさ迷わせ、言い淀む。だが錦の身体の下で逃げられないと観念したのか、やがてぽつりぽつりと話し始めた。 「あんたに初めて触れられた時のこと、思い出して……」  初めて省吾に触れた時。それはまだ省吾は錦の生徒の一人に過ぎなかった。  男子生徒から告白されているシーンを見られ、省吾に初めて素の自分を見せた時だ。自分の弱みを握った省吾への仕返しに、省吾の弱みを握ってやろうと性的に触れたことは、大人として、いや人間として下劣なことだった。今ここで最低だと罵られても仕方がない。 「悪い。嫌なこと思い出させて」  好きでもなかった同性に触れられたことは、心の傷になっていても当然だ。錦は自分が省吾を抱きたいという気持ちだけで、そんなことも考えつかなかった。  錦は省吾の身体から身を引こうとする。だが省吾の手が錦を引き留めた。 「そうじゃなくて。嫌なこととか、そうじゃなくて……。俺、あんたに言ったろ。あの時のあんたがすげぇギラギラして見えて、それが格好良くて一目惚れしたって。なんか今のあんたもその……あの時みたいにギラギラして、なんかすげぇ男っぽく見えて……。格好良くて、目を合わせるのが恥ずかしいっていうか」  省吾がみるみるうちに全身を赤く染めていく。省吾の全身が、錦へ愛を語っていた。 「あんたいつもは甘えたで可愛いのに、ふとした時に格好良くなるから……。ギャップが凄すぎて俺の身がもたない」  こんなにも熱烈な愛を語りながら、目だけは合わせられないとオタオタしている省吾に、錦は全身に火が灯るのを感じた。  こんなに可愛いことを言われると、無茶苦茶にしてやりたくなる。 「あのな、省吾。煽るな。今のはお前が絶対に悪い」  錦は省吾の性器を優しく握りなおすと、先ほどより小刻みに、素早く扱いてやる。敏感な先端部分に指がかかるようにするのが好きなことを錦は知っていた。 「……っ、んっ……」  省吾が息を荒げる。性器を愛撫する手はそのままに、空いたもう片方の手の平を先端部分に撫でつけた。省吾の性器から漏れる透明の液が錦の手の平を汚し、はしたない水音を響かせる。 「う、あ……っ」  性器の裏筋は苛烈に、先端はゆるゆると撫でまわすだけの刺激に、省吾が身体を捩じらせた。性器の下にある袋がぐっとせり上がり、限界が近いことを錦に教える。  錦は省吾に顔を近付けると囁くように言った。 「俺の目を見ながらイって」 「なっ……」 「目合わせないならイかせてやらない」  省吾が目を逸らすと錦は手を止める。省吾はそのたび辛そうに肩で大きく息をした。寸前で止められる辛さは、同じ男である錦にはよく分かる。 「あんた、マジで鬼だわ……」  キッと睨むような鋭い目を錦に向けた省吾だが、錦が再び手を動かし始めると、すぐにその虚勢も崩れてしまう。

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