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第6話
息継ぎの暇を与えないほど、角度を変え、深く舌を差し込む。舌先を絡めあい、噛みつくように吸い上げてやれば、省吾は逃げるように身を引こうとした。だが錦は省吾を逃がすつもりは毛頭なく、押さえつけるように省吾の頭に手を回し、髪をかき乱した。
まだ濡れている省吾の髪から雫が零れ落ちる。妙にそれが扇情的に感じ、錦の雄としての本能に火を点けていった。
「ちょ……まっ……」
省吾が錦の胸を軽く押す。苦しそうに息を漏らす省吾を見て、錦はようやく我に返り、口付けから解放してやる。
錦の目の前で省吾は目を丸くし、顔を紅潮させていた。戸惑うように視線は揺れ、いつもは凛々しい眉も、今は困ったように八の字になっている。
「いきなり、ちょっと飛ばし過ぎじゃね……?」
「仮面を外したお前が見たくて」
「は? 仮面はあんたの専売特許だろ」
「お前が気付いてないなら、それでいいよ」
錦が距離を詰めようとすると、省吾は身を硬くする。緊張しているが、それでも逃げようとはしないところが愛おしいと錦は思う。
すぐ側にあるベッドへ導いてやり、そのまま押し倒す。省吾の緊張が錦に伝播してくるが、省吾が緊張すればするほど、不思議と錦はリラックスしていった。
錦はそっと省吾の身体に触れる。
省吾の身体は鎧のような逞しい筋肉に包まれていた。錦と出会う前から身体を鍛えていたようだが、錦が逞しい身体が好きだと知ると、更に磨きをかけて身体を鍛え上げたのだ。
抱かれている時はこの身体が格好良く見えて仕方がなかった。だが今は自分より男らしいこの身体さえ可愛いと思う。この引き締まった肉体は錦のために作られたのだから、愛おしく思えて当然だった。
「俺がされて嫌じゃなかったことは、お前にしてもいいんだったな」
返事は待たず、錦は省吾の額にキスをする。こうして省吾は頭の先から爪先まで、全身を優しく愛してくれた。それはときにじれったくもあったが、全身を愛で包み込まれる感覚は錦の心を何より満たしてくれる。普段自分が感じている愛情を省吾にも同じくらい、いやそれ以上に味わってもらいたかった。
錦は省吾の耳を軽く食み、耳介に舌を這わず。耳の穴に舌を差し込み、舐め上げてやると、錦の下で省吾の身体が小さく跳ねた。
耳から首筋、そして鎖骨の辺りまで少しずつゆっくりと口付け、愛撫してやる。場所が変わるたびに身体を震わせる省吾に、錦の中の獣が疼きだした。
「どうだ? いつもしていることをされている感覚は」
「どうって……今の俺にそれ聞く?」
錦が身体に触れる度、省吾の身体は歓喜で薄紅色に染まっていく。普段よりも息が上がり、瞳が揺れているのは戸惑いと快感の証だった。
そこにいつも錦相手にイニシアチブを取っている時の省吾はいない。強がりも何もない、ありのままの省吾だった。
「野暮だったな」
戸惑いつつも、省吾の身体は錦の愛を素直に受け入れている。そのことに気を良くした錦は、省吾の胸にある飾りのような頂にそっと指を伸ばす。
「……っ」
省吾に抱かれている時、気まぐれにそこに触れたことはある。だが今日はきまぐれではない。愛するために触れる。
指の腹で転がすように撫でると、そこは芯を持ったように硬く尖った。小さなそこを指で軽く挟み、優しく摘まむ。痛くならない程度に爪の先で引っ搔くと、省吾はくぐもった声を漏らした。
「公太郎さん、くすぐったいよ」
「くすぐったいだけ?」
「……多分」
そう言いつつ省吾は錦から目を逸らす。省吾の言った多分という言葉の中に、くすぐったいだけではない、何かが含まれているのを省吾の声音が語っていた。
それを確認するように錦は省吾の胸の頂に食らいつく。
「っ……は、ぁ……」
舌先で押しつぶすように愛撫してから、乳飲み子のように吸い上げる。
省吾は口元を手で覆い、胸元からこみ上げる未知の快感に耐えているようだった。
落ち着かないのか錦の下で省吾の身体が小刻みに動く。省吾の腰に巻いていたタオルがはだけ、隠されていた下腹部が露わになると、そこはすでに反応を示し始めていた。
「なんだ。やっぱりくすぐったいだけじゃなかったな」
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