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第9話

「あ……っ」  中で指を拡げるようにしてから、ゆっくりと引く。腹側の浅い部分を探るように押し上げると、省吾の声が一段高くなる。 「ちょっ……きつ……っ」  痛みはなさそうだが、今の省吾にはそれを快感とも思えていないようだ。今までに感じたことない不思議な疼きに、省吾はただ身悶える。 「はっ……あ……」  荒い息を吐き、何かに耐えるような省吾の表情には滾るものがあった。このまま自分のものを埋めて初めてを奪ってやりたい気持ちに駆られる。 「んっ……あ、んた、またその顔……」 「顔?」 「またギラギラしてる……」  どうやら雄としての本能が顔を覗かせる度、錦の目が獲物を狙う獣のように光るらしい。屈服させたい、征服したいという気持ちが錦の中の雄を駆り立て、その欲望が目に宿る。 「悪い。お前初めてだから、もうちょっと慣らしてやりたいんだけど。俺の我慢もそろそろ限界」  省吾の身体に触れているだけで、錦の性器は反り返り、痛みを感じるほど屹立していた。ここまでなるのは随分久しぶりだった。 「大丈夫。俺、痛みには強いし。あんたがそうなってるのも俺のせいだろ。それくらい受け止めてやるって」 「簡単に言うな」 「簡単だとは思ってねぇよ。ってかあんたが相手じゃないと抱かれるとか無理だから。痛みの覚悟くらい、今更だっての」  受け身の省吾にここまで言われて、このまま引き下がるのも癪だった。  錦はベッドサイドから潤滑剤を取り出し、省吾と自分の秘部を濡らす。省吾に与える痛みへのせめてもの抵抗だ。  錦は省吾の膝の裏を抱えると、自身の肩へ乗せ、省吾に覆いかぶさる。  省吾の窄まりに自分の昂ぶりを押し当てたとき、若干の躊躇が生まれた。無理をさせてしまうという躊躇いだ。だがそれも自分の下で見上げてくる省吾と目が合うと霧散した。誰も触れたことのない奥を暴いてやりたいという気持ちが勝り、錦を動かす。  ぐっと腰を進めると、先端が中へめり込んでいった。実際に音はしていないが、ミチミチと音を立てそうなほど、そこは窮屈だった。錦ですら少しキツイと思うのだ。受け入れる省吾の負担は計り知れない。  省吾は明らかに苦悶の表情を浮かべていた。歯を食いしばり、必死で痛みを堪えているようだ。自然と身体が力み、それが余計に痛みを増幅させているのだが、引き裂かれるような痛みの中でリラックスしろと言うのも酷な話だった。  錦はゆっくり省吾の中を進みながら、強張る省吾の頬を撫でる。 「ゆっくりでいい。深呼吸して。……そう、先生の言うこと聞けるよな?」 「な、んだよ。教師プレイ、マジですんの……?」  学校での話し方が癖で出てしまっただけだが、可笑しかったのか省吾の身体からフッと力が抜ける。その隙に奥へ奥へと潜り込むと、最奥まで辿り着いたときには互いに玉のような汗を全身に浮かべていた。 「俺の初めてを奪った感想はどうよ?」  痛みで辛いだろうに、省吾が強がって軽口を叩いているのは明白だった。 「そりゃ感無量……」  生まれて初めて男として抱きたいと思った相手を手中に収めたことは、身体だけでなく精神的にも大いに満たされた。  教師と生徒であるうちは親しい関係にはならないと省吾の卒業まで悶々と焦がれながら時が過ぎるのを待ち、卒業式の日に恋人になった時、ようやく省吾は自分のものだと言えるようになったと喜んだが、今思えば本当の意味で自分のものにしたと言えるのは、今この時かもしれない。  省吾の砦を崩し、心も身体の内も手に入れた。抱かれたいとしか思っていなかった錦が自分の奥底に眠っていた男の欲求を、ようやく満たした瞬間だった。 「先生」  省吾の呼びかけに、錦はゾクッとした何かが背中に走るのを感じた。  自分の下で熱っぽい瞳をしている大人の省吾が、高校時代の今より幼い省吾とだぶって見える。省吾の先生と呼ぶ声が、非常に生っぽく背徳感が錦を襲う。  省吾の中にいるだけで達してしまいそうになり、錦は下腹部に力を込め射精欲に耐えた。錦の気持ちなど分からない省吾は、慌てふためく錦にもう一度『先生』と呼びかけようとしたが、錦の手が省吾の口を塞ぐ。 「教師プレイ禁止」  省吾は目を丸くするが、錦の慌てふためく理由を理解したのか、やがて肩を小刻みに震わせながら笑い始めた。 「こらっ、笑うな。締まる! 締まるから! こんなムードのない状態でイクなんて冗談じゃない」  省吾が笑うたびに中が蠢き、錦を締め上げる。 「慌てふためく公太郎さん、可愛いー」 「この状態のどこが可愛いんだよ。そもそも今日、俺のことを可愛いは禁止。今日は俺がお前を可愛がる日なんだ」 「いつも充分可愛がってもらってるけど」 「一段と可愛がりたいんだよ。というかムード! セックス中にこんな会話している方がおかしいだろ」 「その辺はほら、リードする側が頑張ってくれないと」 「……俺が本気になったら恥ずかしがるくせによく言うよ」  格好良くて目を合わせられないなんて可愛いことを言った省吾を思い出すと、自然と頬が緩む。省吾が茶化したり軽口を叩くときは、余裕がなく強がっている時だと理解していた。  省吾は素直じゃない。だがそんなところも可愛いと思う自分も、だいぶおかしいと思う。  恋などそんなものだ。そしてそんな恋をさせてくれた年下の恋人を、錦は愛してやまない。 「少し余裕が出てきたなら動いてもいいか? 流石にこのまま果てるのはちょっと情けない」  省吾の身体が錦を覚えてきたのか、痛みすら感じた締め付けが幾分ましになった。省吾自身も無痛ではないだろうが、身体から余分な力が抜けているのが見て取れる。 「ん。好きにしていいよ」  本心でそう言っているのか、錦に気を使って言っているのかは知らないが、省吾の言葉は錦の雄を駆り立てるのに充分だった。  己の男としての本能にスイッチが入るのを錦は感じる。だが闇雲に貪っては省吾に負担をかけるだけだと、錦は自分を取り戻すためにも省吾へキスをした。  愛情を受け渡すような優しい口付けをかわしながら、錦はゆっくりと動き出す。  省吾の熱い吐息はその夜、なかなか途切れることはなかった。

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