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第10話

 情欲を交わした後、二人はベッドの中で身を寄せ合っていた。省吾と付き合う前から使っているベッドはシングルサイズで、平均より大きな二人が一緒に使うには随分と手狭だった。隙間なくぴったりと密着しなければベッドから落ちてしまいそうなほど窮屈だったが、今の二人にはその窮屈さが心地よい。 「お前、受け身は初めてだったろ。身体は大丈夫か」 「尻に違和感あるけど、そんだけ」 「時間経って辛くなってきたら言えよ。正直初めての人間相手にやり過ぎたとは思っているから」  錦は言いながら省吾の胸に頬を摺り寄せる。  こういった時は抱いた側が相手の身体を気遣い、己の腕の中で恋人に甘い言葉を囁くのが一般的だが、二人の立場は逆だった。  錦は省吾の腕を枕にし、温かい胸の中で一息を吐く。省吾もそんな錦に愛おしそうな眼差し注ぎながら、空いた手で優しく髪を撫でていた。  本当は錦がこうやって省吾を甘やかす予定だった。そのつもりで最初は省吾を優しく抱きしめ、耳元で愛を囁いたりしていたのだが、次第にイニシアチブを取られ、すっかりこの在り様だ。  今回は錦の中の雄が暴走し、省吾を組み敷いたわけだが、二人の本来の性質的に、やはりこちらが正しいのだろう。 「お前、俺に抱かれて後悔してないか?」  抱いた今でも思うことだが、省吾は間違いなく抱かれる男ではない。錦が抱いてみたいと言い出さない限り、間違いなく抱く側であり続けたはずだ。錦に抱かれている時も、強がって軽口を叩いたりしたのも、今にして思えば無意識にイニシアチブを握ろうとしていたのかもしれない。  後悔していると言われても謝ることしか出来ないが、それでも聞かずにはいられなかった。 「別にしてない。俺最初に言ったろ。あんたが相手だったらどっちでもいいって」 「そうだけど、いざ抱かれたら考えが変わることもあるだろう」 「変わってないから安心しろ。実際、結構良かったし。それこそ男がよがってるのなんか、一目瞭然だろ」  錦が省吾の中で果てるまで、省吾も錦の手で絶頂させられた。後ろだけでは無理だったが、前を同時に責めてやると我慢しようにも出来ない快楽の波が省吾を襲った。人に与えられる悦に慣れていない省吾は、それに抵抗することが出来ずあっけなく吐精したのだった。 「俺に抱かれてる時、あんたもこんな感じだったんだなって勉強にもなったし。あんたに抱かれて良かったと思ってるよ」 「そうか」  抱かれて良かったとまで言われるとむず痒い。だが同時に嬉しさで身体が満たされる。 「思い切って抱きたいって言って良かった」  髪を撫でる省吾の手が心地よくて、錦はうっとりと目を閉じた。身も心も満たされていたが、久しぶりの抱く側のセックスは体力を消耗した。頭に血が昇りっぱなしだったので、余計に疲労が募ったように感じる。  実際身体のダメージは省吾の方が大きいはずだが、これが歳の差なのだろうか。省吾の方は随分余裕が感じられた。 「でも公太郎さん。俺、後悔はしてないけど、覚えておけよとは思ってる」 「なんだそれ」  省吾の言葉に若干危険な雰囲気を感じ、錦はうっとり閉じていた目を開ける。 「だって教師プレイとか、目を見つめながらじゃないとイかせないとか、なかなかの羞恥プレイを要求された気がすんだけど」 「……別にそれくらい、羞恥プレイでもなんでもないだろ」  特に教師プレイについてはそんなつもりはなく、普段の口癖でそうなっただけだ。 「へぇ。あんたはあの程度なら平気なんだ。俺が先生って読んだら慌てふためいていたのに。なら今度、俺があんたを抱きながら先生って呼んでも余裕だよな? 盛り上げるためにあんたにはスーツを着てもらって、教師に無理やり迫る生徒って設定で……」 「……悪かった。勘弁してくれ」  そんなことをされた暁には、スーツを着ただけで省吾のことを思い出し、身体に火が付いてしまう。学校で生徒に先生と呼ばれただけで、動揺してしまいそうだ。  錦が素直に謝ると、省吾は目だけで笑う。 「公太郎さん、ちょっとエロいこと考えたろ。あんたそういう時、目が泳ぐんだよ。明日お互い休みだったら今からでもあんたのこと抱くんだけどな」 「抱くって……お前、抱かれた後だろ」  正直錦は疲労で勃ちそうにもない。省吾も若いとはいえ、複数回達した後では勃ちも悪いだろう。 「あんたが相手だったら勃つと思う。イきにくいとは思うけど、その分あんたを啼かせられるし。あんたは勃たなくても後ろでイけんだろ」 「恐ろしいこと言うなよ……」 「言ってるだけでしないって。流石に膝ガクガクのあんたを教壇に立たせるのは忍びないから。生徒達の目の毒だしな」  何が目の毒だと、錦が心の中で悪態を吐く。  錦が体勢を変えようと身じろぐと、ベッドがギシっと嫌な音を立てた。 「なんかこのベッド、そろそろ壊れそう」  二人の体重や激しいセックスで、ベッドにはかなり負荷がかかっていることだろう。元々古ぼけていたこともあり、いつ崩壊してもおかしくはない。 「買い替え時かもな」 「なら次はセミダブルがいい。流石にシングルじゃ寝返りもうてないし」 「そうしたいのは山々だけど」  単身者用の錦の住まいは、お世辞にも広いとは言えない。シングルサイズのベッドを置くだけで圧迫感があるのだ。これ以上大きなサイズのベッドだと、他の生活に支障をきたしそうだった。 「公太郎さん、前に俺が話したこと、覚えてる?」  省吾が真剣な声音でそう言う。摯実な空気を纏った省吾の言葉には、錦も心当たりがあった。 「お前が大学を卒業したら、一緒に暮らそうって話か」  省吾は頷く。 「あと三年はかかるけど、俺の気持ちは変わりないから」

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