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第1話

 三十路のオメガである新谷(しんたに) (つむぎ)。  去年の冬、当時番だったアルファと別れた。  理由はアルファが紬を面倒に感じたからだとか。  番を解消するということは決して簡単なことでは無い。その行為はオメガの心身に大きな負担を与える。  医学が進歩した今、負担を軽減することのできる薬ができてそれをしばらく飲んでいたが、紬にはどうも効きが悪かった。  そして夏になった今も、普通に仕事をするのは難しくアルバイトでなんとか凌いでいる状態。  その他にもイレギュラーが起きていて、最後にアルファと過した発情期で身篭ってしまったらしい。  ただ番を解消した代償だと思っていた吐き気は悪阻だった。  生きるために必死で体を動かした結果、道で倒れてるところを通行人に助けられ、救急車で運ばれた先で妊娠が発覚した。  色々と衝撃である。  頭が痛い。気持ち悪い。  そんな最悪な体調でも働かなければ食えない。  お腹にいる子供のため、お金は少しでも貯めたい。  妊娠が発覚した時、堕ろすかどうかの話になった。  たった一人、定職に就いていないオメガが育てられるのか? と相談に乗ってくれた人達に詰められることもあった。  でも、子供に罪は無い。  お腹の中で子供は既に生きているわけで。  紬は必ず育てるんだと強い覚悟でここまで来た。  が、子供を産む前に自分が死にそう。  ただ、この体調不良にも、たった一つだけ治療法がある。  それは新たに番を持つこと。  コンビニのアルバイト終わり、公園のベンチに座りボンヤリ空を眺めながら「無理だよなあ」と呟く。  どんよりした曇り空は今にも泣き出しそうだ。  俺も泣きそう、そう思った紬が俯き顔を手で覆った時、「大丈夫ですか……?」と男性に声をかけられた。  顔を上げ、「大丈夫です」と言おうとして、視界がグルンと回る。  ベンチから前屈みに落ちそうになった時、男性が慌てて紬の体を支えた。 「え、大丈夫? 気持ち悪い? 熱中症かな……水分は摂ってる?」 「……」 「ちょっと体触るよ、ごめんね。」  ふわっと抱き上げられ、寝れるように平たい場所に移動させられる。 「病院行きましょうね。これ飲める?」 「……むり」 「ん、わかった。ちょっと待って」  そのうち二人の周りには多くの人が集まって、男性が電話をしている間に、水を飲ませてくれる人や仰いでくれる人もいて、皆親切だなあと紬は一人、呑気に思った。  

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