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第2話

■  目が覚めると病室にいた。  腕には点滴が刺さっていて、すぐ傍の椅子には助けてくれた男性が。  慌てて起き上がろうとして、肩を押さえられる。 「寝ててください」 「あ……あの、すみません。ありがとうございます……」 「いえ……。……お腹の子も無事です」 「!」  言っていいものなのかわからないが、というふうに男性は紬から目を逸らして子供のことを伝えた。  紬はそれを聞いてホッとし、お腹をそっと撫でる。  男性はその姿を見て心を震わせる。  この男性──梔子(くちなし) 恭介(きょうすけ)はアルファだった。  恭介は紬が自らの腹を慈しむように撫でる姿に胸が苦しくなるほどの庇護欲を感じて、喉をごくりと鳴らす。  恭介は三十路のエリートサラリーマンである。  恋人はいない、番もいない。  両親からは早く孫が見たいとせっつかれ、実家に帰る度にトホホな気持ちになっていた。  そんな中、目の前にはもう既に他のアルファに愛され、妊娠までしているオメガがいる。  自分もこうして愛する人と一緒になりたい。そして願わくば子供を。と思った時に『あれ、そう言えば……』と疑問を抱く。 「番の方は来られないんですか? よければ連絡しましょうか?」 「あ……えっと……番は、解消しちゃって……」 「はっ!?」  番を解消するだなんて、どういうことだ。  恭介は内心怒りで燃えながら、それでも優しい表情で「聞いてもいいことですか?」と問いかける。 「あ、ああ、まあ、そうですね……。俺が面倒くさくなったみたいで、番を解消したいって言われてしまって……」 「……妊娠してるのに?」 「その時は知らなかったんです。俺も、相手も」  紬は努めて明るめの声で話をするが、その声は震えていた。  気丈に振舞ってみせるが、やはりそれは信じられないくらいショックな出来事だった。  ずっと一緒にいれると思っていたから。  最期まで愛し合えるものだと思っていたから。  別れたいと告げられた日をふと思い出し、紬は泣いた。  そこに人がいることも忘れて、涙が出なくなるまでずっと。

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