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第3話

 紬が散々に泣いている間、恭介は膝の上でギチギチに拳を握っていた。  例え妊娠を知らなかったとしても、一度番になったのなら最後まで添い遂げるべきだと思ったからだ。  番を解消するのはアルファにとっては簡単な事だが、オメガは違う。  心身共に大きな負担が掛かる。  そんなことは義務教育のうちに学んでいる筈だ。  恭介は公園で紬を見かけた時に体調不良をすぐに見抜いていた。空を見上げる顔色が土のように悪かったから。  声を掛けるか悩んでいるうちに顔を覆って俯いたので、吐くのかと思い駆け寄った。 「大丈夫ですか……?」と問いかけると倒れ込んできて……。  慌てて寝かせた時、直ぐに気づいた。彼がオメガだと。  というのも、顔色は悪いが綺麗な容姿をしていたからだ。  男性にしては華奢で柔らかい体格。  確信できたのはちらりと見えた項に残る噛み跡のおかげ。  そして、番がいるにしては、どうしてここまで体調が悪いのをアルファは放置しているんだと思っていた。 「落ち着きましたか……?」 「ん、はい。ごめんなさい」 「いえ……。あ、お医者さんが話があると言ってて……ちょっと呼んできますね」  恭介は少し紬の傍を離れて医者を呼びに行った。  戻ってくると、紬はウトウトしていて、そんな姿に愛しさが芽生える。  しばらくして医者と、スーツを着た女性がやってきた。  軽く挨拶をすると、恭介がいるにも関わらずデリケートな話を始めた。  この体調の悪さは番を解消しているからだろうと指摘され、紬は顔を青くさせる。  そして、仕事はしているのか。妊娠もしているし、施設に入るのはどうか、と畳み掛けるように紬に問いかけた。  この施設とは、身寄りのないオメガの保護施設のことで、そこに入れば衣食住は確保されるらしい。  昔程差別の酷い世の中では無い。だがそういった施設ができたのはつい最近。  詳しくは知らないが、恭介は子供のためにもいい案だと思った。  けれど突然紬が「絶対に嫌だ!」と大声を上げ、恭介は驚いて紬を見る。

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