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第4話

 紬は施設のことをもちろん知っていた。  番を解消する時にそこに入るかをギリギリまで悩んでいたから。  けれど妊娠した今、そこに入るつもりは毛頭ない。  というのも、妊娠したオメガが施設に入った場合、子供は産まれた途端に奪われてしまう。  施設にいるオメガが子供を育てられるはずがないだろうと、離れ離れにされてしまうのだ。  取り乱す紬に、『落ち着いてからまた話をしましょう』と医者達は退室する。  紬はどうしようと悩み、唇を噛んだが、ふと未だ傍にいた男が視界に入った。  男は酷く戸惑っていて、申し訳ない気持ちになる。 「……ごめんなさい、声荒らげて……」 「いや……。でも……どうしてそんなに怒ってるんですか……? 施設なら安全に暮らせるのに……」  紬は苦しい気持ちになりながら、施設と子供の説明をした。  自分を捨てた男との間にできた子でも、大切な子なのに変わりはない。奪われてたまるか。  恭介は紬の話を聞いて、施設の事を何も知らず『いい案』だと思ったことを反省し、どうにか彼を助けられないかと考えた。  そこでハッと閃く。 「あの、一つ提案が」 「……はい?」 「俺、アルファなんです。とりあえず俺と近い将来、番になる関係だと周りに伝えませんか?」 「は?」  紬はポカンと間抜けに口を開けて固まる。 「そうすれば施設に行かなくて済む。それで、疑われないように暫くは俺の家に住んだらいい。俺も貴方の体調が気になるし……」  紬は『何を言ってるんだこの人』と思った。  こんなお人好しがいるのか?  見ず知らずのオメガを助けるか?と。 「子供と離れ離れになりたくないなら、今はそれが一番いい案だと思いませんか?」 「あ……でも……」 「家賃や光熱費なんか要りません。貴方が元気になるならそれでいい。だからそれまで、どうか」  紬は恭介の真剣な顔に心が揺らいだ。  お願いしていいものなのかはわからない。  でも子供と離れ離れにはなりたくない。  となれば選ぶ答えは一つだけ。 「……っ、お願い、します」  目に涙をためながら頭を下げた。

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