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第13話

 恭介は紬と出会った時のこと、出会ってからのことを伝える。  いつも紬と話している時とは違う、低くて威圧的な声で。  話を聞いた時雨は思ってもなかった事実に驚き、何も言えずにいた。 「あんたにこの人を責める資格はない。勝手に捨てたのはあんただ。この人は一人でも子供を育てるって今まで必死で……っ」  紬は恭介の腕の中で静かに泣いた。  連絡があって嬉しかった。でも、今は酷く悲しい。  時雨は泣き続けるΩに対し、暫くして漸く素直に謝った。 『酷い事をした。酷い事を言った。許してほしいとは思わない。ただ責任は取る。』と。  紬は首を振る。  もう前の関係に戻ることはできないし、そもそも関係そのものを断ち切りたい。 「せ、責任、とか……いらないから……子供は、俺が育てる……っ、もう二度と会わないし、会わせない……!」  紬はそう強く伝えた。もうこの場にも居たくなかった。  時雨は「わかった」と一言言うと、紬の傍に来て低く頭を下げる。 「本当に悪かった」 「っ」  紬はもう彼の姿を見たくなくて俯き「さよなら」とただ一言だけ落とした。 ■  帰宅した紬はボンヤリしたままソファに座(動かずにいた。  そんな紬に何を言うことも無く、恭介は傍にいる。  何かあればすぐに助けられるように。  そしてその日はまともに食事もできないまま、酷く疲れていた紬は眠りに落ちた。  恭介は紬が眠った後、堪えていた怒りを発散させるために冷蔵庫からキャベツを取りだし無言で千切りを始める。  許せなかった。  あの場にもし紬が居なかったらどうなっていたことか。  丸々一玉千切りし終えた恭介は、大きく溜息を吐く。 「明日はお好み焼きにしよう」  それからは無言でシャワーを浴び、寝る準備をして寝室に入る。  朝起きたらまずは紬の様子を見に行って、今後の話をしたい。  時雨にはもう二度と会わないと言っていた。吹っ切れた訳では無いだろう。  けれど懸念していたひとつの事はこれで一段落ついた。  なので……。  急いているわけでは無いのだが、恭介には紬に伝えたいことがあった。

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