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第29話 いつもと違うこと

 ──怒ってる。  紬は帰宅した恭介を見たと同時に、恭介の機嫌が悪いと思った。  いつもは無い眉間の皺。今はググッと寄っている。 「ただいま」という声もいつもより素っ気なく、仕事で何かあったのだろうかとソワソワしてしまう。 「あの……ご飯、どうする?」 「うん。食べるよ。」 「じゃあ、えっと……準備するね。」 「ありがと」  話せば普通なのだけれど、いつもより重たい空気を纏っている感じ。  なぜだか今日は充希にもあまり近づこうとしない。  普段なら真っ先に充希のところに行き、「帰ってきたよ~」と随分甘い声で話しかけているのだが。  話し掛けにくい。  なので物理的にいつもより少し距離を取る。まあご飯を食べようとテーブルの席に座ってしまえば何も変わらないのだが。 「いただきます」 「いただきます……」  今日の晩御飯は紬の大好物であるハヤシライス。  紬は一口食べて心の中で『美味しい!』とウキウキしていたのだが、食器が空になる頃恭介が大きな溜息を吐いた。肩をビクッと震わせ視線をテーブルに落とす。 「ぁ、あの……ハヤシライス、美味しくなかった……?」 「え?いや、美味しいよ。ありがとう。ご馳走様」 「ぅ、よ、よかった……」  恭介といると心が穏やかになって安心できるはずなのに、今日はやけに緊張する。 「……怒ってる?」  なので、そんな雰囲気の恭介に耐えられなくなり、紬はストレートにそう聞いた。  途端、恭介がキョトン……として「え?」と首を傾げた。 「今日、いつもと違うから……。会社で、何かあった……?それとも、俺が何かしちゃった……?」  その言葉に恭介はギクッとしたように表情を歪める。

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