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第30話 いつもと違うこと

「……ごめん」  そして一言呟いた。  紬は顔を上げて恭介を見つめる。 「どうしたの……?俺、何もできないかもしれないけど、話は聞ける、かも……」 「あ、いや、何も無いんだよ。ただちょっと……」 「ちょっと……?」 「体調が良くなくて」  恭介の言葉を聞いた紬はガタガタっと大きな音を立てて立ち上がる。 「な、なんで、言わない……!?」 「あ……ごめんね。」 「ご、ごめんねじゃなくて、言ってくれなきゃわかんないよ……」  紬は恭介の手をキュッと掴む。 「直ぐに寝なきゃ……。体温計どこかにあったかな……。あ、でもお風呂入りたいよね……?」 「大丈夫だよ。ちょっと頭痛いだけで」 「頭が痛いのはしんどいよ。早く休まなきゃ。あ、お薬あったっけ……?」  とりあえず恭介の要望もあり、お風呂に入ってもらい、その間に紬は薬と体温計を探した。  お風呂から出てきた恭介の髪をドライヤーで乾かしてあげたあと、用意していた薬を飲ませて寝室に連れて行く。 「ゆっくり寝てね。俺は充希と寝るからね」 「え……ぁ……」 「? どうかした?」 「……寂しいなって思いました」 「……ふふ」  恭介が素直な気持ちを零す。それが可愛くて思わず笑った紬に、恭介は少し恥ずかしそうだ。 「あの……恥ずかしいから笑わないで」 「ふふ、ごめんね。明日は一緒に寝ようね」 「うん。……おやすみ」 「おやすみなさい」  その日恭介は一人で眠った。  朝になると頭痛は治まり、むしろいつもより早く寝たこともあってスッキリとしていた。  コンコンとドアがノックされる。  恭介が返事をすると紬が入ってきて「おはよう」と声を掛けてきた。 「おはよう」 「体調、どう?」 「うん。もう大丈夫。昨日はありがとう」 「よかったぁ」  紬はそう言うと一瞬姿を消し、すぐに充希を連れて戻ってくる。 「充希がおはようって」 「うん。おはよう、充希。」  恭介は充希をそっと抱きしめる。  穏やかで優しい一日が始まった。

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