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第37話 充希と陽葵

 紬と恭介の間に生まれた子供。  充希が産まれた時もその小ささに壊してしまいそうで怖かったが、新たに産まれた女の子はより小さかった。 「陽葵(ひまり)ぃ、パパだよ~」  そんな女の子──陽葵を抱っこして、デレデレな顔をする恭介に、紬は苦笑する。  仕事から帰ってくると彼は直ぐに陽葵のところに行って、今のように話しているのだが。  これに嫉妬するのは歩き始めた充希である。  充希はヨチヨチと恭介のところに行くと、ペチッと彼の足を叩く。  ハッとした彼は陽葵をベビーベッドにおろすと、充希を抱っこして「ただいまあ」と柔らかく微笑んだ。  紬はその様子に漸くホッとして、料理をテーブルに並べた。  最近紬は少し気になっていることがある。  それは──陽葵が産まれたことにより、恭介が自分の子供ではない充希と段々距離を取るんじゃないかということ。  というのも最近、充希は元番である時雨に似てきたように思う。  そしてこれから先、自分に似ることはあっても、恭介に似ることは無いのだと思うと不安と罪悪感を感じてしまって。 「充希は今日何してたのかなぁ」 「パパ」 「んー?」  充希にパパと呼ばれて嬉しそうな顔をしているのを見れば、そんな感情も薄れるのだが。 「充希はお喋りが上手だね」  そう言って充希の頬にキスをする恭介。  紬はこの事をそのまま胸に隠しておいても何の解決にもならないと思い、二人きりになった時に聞いてみることにした。 「──は?充希が、何?」 「……えっと……充希が自分の子供じゃないのは、嫌……?」  夜。子供達が眠ったあと。  紬は「話がある」と恭介に伝え、二人でリビングに出てソファーに座る。  恭介は『何の話だろう』と少しソワソワしていたのだが、紬の話を聞いてスッと表情を消した。 「……まず、何でそんな話になったのか教えてほしい」  そう聞かれたので、紬は最近ずっと感じていたことを打ち明けた。  そして、自分がもっとしっかりしていたのなら、恭介はまさか他人の子供を育てることはしなくて良かったかもしれない、と。  充希は本当の父親の元で育ったかもしれない、と。 「俺がそう、思っちゃって……だから、貴方もいつかは、そう思うのかなって……」 「……はぁ」  恭介は頭を抱えるようにして大きな溜息を吐いた。  思わず肩を揺らした紬は、居心地悪そうに視線を彷徨わせる。
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