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第38話 充希と陽葵
恭介は少し波の立った心を落ち着かせると、紬の名前を呼ぶ。
そして視線が合うと困ったように笑って「あのね」と優しく話しかけた。
「俺も、充希も、陽葵も。皆で一緒に過ごせることが幸せなんだよ。」
「……」
「誰一人として欠けちゃいけない。俺たちは家族だろ」
「っ、」
フイッと紬が目を背ける。
恭介は苦笑して紬の肩を抱き寄せた。
「似てる、似てないとか。血が繋がってる、繋がってないとか。家族ってそういう事じゃない。」
紬は黙って恭介の言葉を俯いて聞く。
「俺にとっての家族は、俺が守りたい、大切にしたいって思う人達のことだよ。」
紬は泣きそうになって唇をぐっと噛む。
もう一度恭介に名前を呼ばれ、おずおずと顔を上げて彼を見た。
「俺は充希のことも、陽葵も、君も、全員家族だと思ってるよ。……君は違う?」
「ち、違わないっ!」
慌てて言えば思ったより声が大きくて、口を片手で覆いチロッと恭介を見上げる。
「……ごめんなさい。」
「うん」
「すごく、嫌なこと言った……」
「大丈夫。」
「俺も、皆が好き。皆のこと守りたいって思う」
紬の言葉に恭介はふんわり微笑んで、ギューッと紬を強く抱きしめる。
そんな彼の背中に手を回し、紬も強く抱きしめると「……充希にも謝らなきゃ」と体を離し、パタパタと眠る充希の元へ急いだ。
そして、スヨスヨと気持ちよさそうに眠る充希の頭を優しく撫でる。
あんな考えを持ってしまったこと自体が恭介にも充希にも失礼に思えて、目を潤ませながら充希に何度も「ごめんね」と伝える紬。
「充希も怒ってないから、大丈夫だよ。」
「……貴方も、怒ってない……?」
「うん」
「……ごめんね」
「怒ってないよ。謝らないで」
紬はネガティブな所があるので、何度も謝る彼を抱きしめた恭介は「もう寝よっか」と早いところ寝かせてネガティブを断ち切ろうとした。
「ぁ、待って。あの……大好きだよ。」
が、ベッドに誘導しようとして紬に止められ、改めて『好き』と言われるともっと話していたくもなる。
「俺も好きだよ。でも今日はもう寝ようね」
「うん」
「ほら、不安な顔しないで。大丈夫。なんならずっと抱きしめて寝てあげようか?」
「……うん。抱きしめて」
まさか、その提案にノッてくれると思わなかったので、恭介はニヨニヨと笑ってしまう。
結局その日、恭介に抱きしめられて眠った紬は安心していたようで、朝まで目を覚ますことも無かった。
「ママ~」
「ん……」
翌朝、充希の声が聞こえて目を開けた紬。
するとペチッと充希の手が頬に落ちてきて驚く。
充希のすぐ傍には恭介と、恭介の腕の中にはまだ眠っている陽葵が。
「おはよう」
「……おはよう」
紬の胸がポカポカになっていく。
家族に囲まれて幸せな朝だった。
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