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第39話 我慢

 紬はこれまでの人生で何度も『我慢』をしてきた。  なので多少のことでは不満を口にしない。  少しくらい辛くても耐えてしまう。 「ママ」 「……ん、ん?なあに」  その日紬は頭痛が酷かった。  薬は飲んだのだが、効きが悪いのかなかなか治まってくれない。  恭介は仕事でいない。  今日の紬は二人の子供を一人で見なければならない。  有難いことに陽葵はお昼寝中。  紬は充希に絵本を読み聞かせ、一緒に積み木で遊び、クレヨンでお絵描きをする。  陽葵が起きてから三人でお散歩に出かけ、帰ってきてからご飯の準備と洗濯物を畳む。  そこまできて、紬は充希と陽葵と一緒にソファーに倒れた。 「パパ、まだかな……」  早く帰ってきてほしい。  出来ることなら充希をお風呂に入れてほしい。  紬はガンガンと痛む頭に顔を顰めた。  そして気づけばそのまま眠ってしまっていて。  目を覚ますと恭介が話をしながら充希にご飯を食べさせていた。  紬は慌てて起き上がって「ごめんなさい」と謝り、すぐに恭介の食事の準備をしようとすると「落ち着いて」と恭介が傍に来て紬の腕を掴んだ。 「俺は自分でするからいいよ。君は熱が出てるから無理せず休んで。」 「……出てない」 「出てます。体こんなに熱いのに流石に騙されないよ」 「……」  紬はチロッと恭介を見上げ、降参したかのように息を吐くとヘナヘナ床に座り込んだ。 「わ、大丈夫か?」 「……実は、ずっと頭痛くて」 「うん。薬は?」 「飲んだけど、あんまり効かなかった」  紬の背中を優しく撫でる恭介は、無理に立たせようとはせずにブランケットを持ってきて肩にかけてやる。  立てた膝に腕を置き、そこに顔を埋めた紬は今は動きたくない様子。  恭介は肩にトンと触れると、優しく静かに話しかけた。 「寒くない?」 「……ん」 「ちょっとだけここに居れる?それか動けるようならベッドまで連れて行くけど」 「……今は、無理かも」 「わかった。じゃあ、ここにいてね。先に充希と陽葵のご飯してくるから」  恭介の声に紬はだんだん眠たくなってくる。  頭がフワフワになりながらも、番の柔らかい声はこんなにも安心できるんだと知った。
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