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Firecrackers 高校3年 最後の夏休み | 合瀬 由乃の小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
Firecrackers
高校3年 最後の夏休み
作者:
合瀬 由乃
ビューワー設定
18 / 22
高校3年 最後の夏休み
美己男
(
みきお
)
への暴行騒ぎはその場にいた全員が口を噤んだまま、まるで何も無かったかのように夏休みになり、
寛太朗
(
かんたろう
)
もいつもに増して静かに過ごしていた。 そんな中、7月の終わりに
然
(
ぜん
)
から
理貴
(
よしき
)
が会いたがっている、と連絡があり寛太朗は理貴の家に向かった。 「悪いな、来てもらって」 ドアを開け少しやつれた理貴が顔を出す。 理貴の部屋に入ると、然が無言で手を挙げた。 「いや、どうせ図書館で勉強するだけだし。なんだよ、理貴、夏バテか?」 寛太朗はいつも通りに話しかけながら理貴の部屋を見渡した。部屋には段ボールの箱が積んであり大きなスーツケースが置いてある。 「あ、そか、今年も行くの?サマースクール?」 寛太朗はスーツケースを見てそう訊いた。 「ああ。明日、出発。で、そのまま留学することにした」 理貴が無表情な声でそう答える。 「へー、そのままって?どういうこと?」 「こっちの高校、卒業しないってこと」 「は?なに言ってんの。一緒に卒業しようぜ、理貴。あとちょっとなのに。留学なんてその後でもいいじゃん」 寛太朗は驚いて青白い理貴の顔を見つめた。 「寛ってほんと優しいっつーか、器でかいよな、そういうとこ」 「はぁ?器の問題かよ」 「そうだろ、多分。だって俺だったら、あんなひどいことされて普通に友達続けるとか、ぜってー無理」 「そんなん、おあいこだろ。俺もひどいことお前にしたんだから」 「全然次元がちげーし。俺、あの
赤髪
(
あかがみ
)
をレイプさせるつもりだったんだぜ?一緒に卒業どころか前科持ちじゃん」 「してねーだろ。結局、できなかったじゃねーか」 「然とお前が来てくれたからだよ。運が良かったの」 「そんなこと言ったら俺だって、お前から高い服、ただでしこたまもらって横流ししてたんだから犯罪だろーが」 「無理あんだろ、それ。こじつけもいいとこ」 さすがにそれ以上の反論が思いつかず寛太朗はベッドの端に座った。 「・・そんなに嫌いだった?美己男のこと」 「嫌いっていうか、なんかムカつくんだよ、あいつ見てると。頭悪そうで母親も最低で。なのにそんなのお構いなしで幸せそうにお前のそばで全部赦されてるような顔しやがって。あいつの絶対裏切らないって信用しきってる感じが許せなくなった。なんか、何もかんも取り上げてやりたくなって」 理貴が声を詰まらせる。 「俺、マジ最悪」 「美己男さ、小さい時、母親に電気止められた部屋に何日も置いてかれたことがあったらしくて」 寛太朗は子供の頃のことを話し始めた。 「だから小さい時、暗いとこに1人で置いていかれるとパニック起こしてたんだよ。俺、それ知ってたから小学校の時、自分の嫌いな授業の前に美己男を裏庭の真っ暗な掃除道具入れに閉じ込めてさ」 「え?それで?」 意味が分からない、と言った様子で然が尋ねる。 「しばらくしたら掃除道具入れの中であいつ、泣きながら大暴れすんの。そしたらもう、どこのクラスも大騒ぎになって授業が潰れてさ。俺が閉じ込めたって誰にも言うな、すぐ迎えに来るから大丈夫って言って暗い場所に押し込めて自分は教室で知らん顔してた」 然が呆れた顔で寛太朗を見た。 「寛、鬼だな」 「お前、腹黒過ぎ」 「だよな。俺もマジで最低な奴だよ、理貴。なのに自分だけ明日いなくなるって、ざけんなよ。何だよそれ」 「じゃあさ、お前も一緒に来れば?小さいフラット2人で借りて一緒に住めばいいじゃん。寛なら勝てそう」 理貴が泣きながら笑う。 「お前、殺す」 その顔を見ながら寛太朗も鼻の奥の痛みを
堪
(
こら
)
えて笑った。 「なー、然。俺、どこで間違っちゃったんだろ」 理貴の家を後にして然と歩きながら寛太朗は問いかけた。 「何も間違ってないだろ」 「そっか?やっぱ間違えてんじゃね?理貴をあんなに追い詰めてたの全然気が付かなかったし。何か、色々壊しちゃった気がする」 「それは寛のせいじゃない。理貴が自分で壊したんだよ。あんなことしといて寛に許されてること、もっと感謝していいぐらいだ。力で人を従わせようなんて最低だ。自分だけは何をやっても許されるとでも思ってんだろ」 然が怒っているのがわかる。 「でも、俺がもうちょっと早く気付いていれば、あのまま変わらずに3人で一緒にいられたかもしれないのに」 「無理だろ、あんなお子様王子のままじゃ。欲しいもの全部なんか手に入るわけない。人の気持ちを操ることなんてできやしないのに」 「そっか、そうだような。俺、できると思ってたわ。子供の頃は面白いぐらいに技、使えたんだけどな」 「寛はうまかったからな、それ」 「最近、使えなくなった」 「使えないんじゃなくて使わないんだろ。もうそれ使わなくても寛自身のことも美己男君のことも守れるようになったってことだよ」 「別に守る為にやってたわけじゃねえけど」 「そうか?小さい時のお前が、美己男君と自分を守るために使ってきた技なんじゃないの?」 「まさか。ただ、面白くってやってただけだよ。人を守る為なんてそんないいもんじゃない。結局なんも守れなかったし」 「いや、ちゃんと大事な人守ってたよ、寛は。すげぇカッコいいなって思った」 「大事な人って?」 「美己男君は大事な恋人だろ?」 然が驚いた顔でそう言った。 「え?美己男は恋人とかそういうんじゃなくて」 「そうなのか?でも好きなんだろ?」 「ええ?好き?っていうか・・。いつも美己男が後をついてくるから。小さい頃、ずっと一緒にいたし、それが普通っていうか」 寛太朗は答えた。 「俺は2人は恋人同士だと思ってたけどな。寛、いつも美己男君のこと気にかけて大事にしてんなって思ってたよ。美己男君は思いっきり寛のこと好きですオーラ出てたし」 然はそう言っておかしそうに笑った。 美己男のことを大事だとか恋人だとかそんなふうに考えたことはなかった。いつも美己男が後ろをついて来る。泣かすのが楽しくてしょうがなくて、腕の中に抱きしめると安心できる。 「あいつ見てると平和だからさ」 「ふーん、それが寛の好きってことなんだな」 「それって好きってことなのかな」 「それ以外にあるか?その平和ってやつを守りたくてあんなに必死に走ったんだろ。俺はちょっと羨ましいよ、お前らのこと」 好き、とかそういうのはよくわからない。でも美己男は俺のものだと当然のように思っていたのかもしれない。 「本人には言ってないの?」 「美己男に?言うわけないだろ」 「ちゃんと言っておいたほうがいいぞ」 「それってわざわざ言うもんなのかな?」 「そりゃあ言われたら嬉しいと思うよ。美己男君は?言わないのか?」 「美己男はいっつも言ってる」 「なんだよ、だったらなおさら寛も言ってあげれば?寛は言われてどう思ってたんだよ」 「どう・・だろ。あいつ、何ていうか反射的に言ってる感じはあるけど。でも、多分、知ってる、って。分かってるって思ってたって言うか」 「あはは、何だよ結局ノロけか。羨ましいな。理貴もずっと羨ましかったんだろ、お前らのこと。理貴ははっきりと言わなきゃわかんないってタイプだからさ、お前らの言わなくても分かりあえてる感じが我慢できなかったんだよ」 「そうなのかな。そんな羨ましがられるようなことなんて何にもねーよ。理貴のほうが何でも持ってんのに。金持ちで家でかくて、美人のお母さまも社長の父親までいるのに」 「まあな。でもそういうのとは全然違うよ」 「そうなのかな」 『寛ちゃん、大好き』 その言葉にずっと縋ってきたのは寛太朗のほうなのかもしれない。 本当は誰かに気にかけてもらいたかった。 誰かにひたすら愛されたかった。 父親には愛されていた記憶どころか存在すら曖昧で、母親には頭が良いことだけが感謝できると言われたきり、どんなに勉強しても褒められなかった。息子に火傷の痕をつけた奴には感謝していたくせに、寛太朗自身には何も言ってはくれず、お互いに距離を保ちずっと他人行儀なままだ。 それでも平気だったのは美己男がいたからだ。美己男がずっと与えてくれていた『大好き』という気持ちが寛太朗を満たしていた。 美己男が寛太朗に全部赦されている、と理貴は怒っていたけれど逆だ。本当はずっと美己男が寛太朗の何もかもを受け入れて赦していた。だから何があっても平気だった。 みーに会いたい 一緒に飯食って小さいベッドで抱き合って一緒に眠りたい 大好き、と言う言葉を聞きたい 赤い髪も、左の頬のえくぼも絡みつくようにして抱き着いてくる長い手も 全部、俺のものだと確かめたい 男を、美己男を好きだ、という言葉をどうしても口に出す勇気が無かった。ただ自分を守るのに必死で何も見えてなかった。そのせいで周りの人を傷つけてしまった。 「俺だっせぇ」 「ええ?何、どういうこと」 「俺、あいつのこと、すげー好きだったんだな」 然があはは、と明るい笑い声をあげた。 「お前なあ、俺に言ってどうする。そういうの、本人に言えよ」 「だよな」 寛太朗も笑った。 「ありがとな、然」 「おお、じゃあ、学校でな」 そう言って手を挙げた然の背中を見送って、寛太朗も歩き出した。
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合瀬 由乃
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