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第15話

 次の日、二人は早速YouTubeチャンネルの立ち上げに取りかかった。  チャンネル名はひとまず玲衣と煌の頭文字を取ってR&Kチャンネルにした。  まずは試しに短い動画を撮ってアップすることにした。浜辺で何か面白い素材がないか探していると、玲衣が砂浜に小さな穴を見つけた。 「これ、マテ貝の穴じゃないかな?」  玲衣は以前、誰かがYouTubeにアップしていたマテ貝獲りの動画を見たことがあり、砂を浅く掘ると、落ちていたペットボトルに海水を汲んできた。 「動画では塩を使ってたんだけど……」  穴の中に海水を注いでしばらく待つと、にょっきりと細長いマテ貝が飛び出した。すかさずそれを指で掴み引っ張り出す。 「やった!」  二人はその場で小躍りして喜んだ。 「煌もやってみる?」 「俺は後からでいいや。それより玲衣が獲ってるのを動画に撮るよ」  じゃあ後から交代ね、と玲衣は次の穴を掘り始める。 「あ、顔は撮っちゃダメだからね」 「うん、分かってるって」  逃亡中の二人だ、万が一のことも考慮しなければならない。SNSに投稿された動画や写真から、場所を特定されることもあるからだ。  玲衣が次々とマテ貝を獲っていく様子を一通り動画に収めると、煌はこっそりスマホのカメラを玲衣の顔に向けた。  さっきから夢中になってマテ貝を獲る玲衣の笑顔が眩しくて仕方なかった。素敵なものを宝箱に保管するように、玲衣の笑顔をカメラに収めたかったのだ。  レンズ越しの玲衣が煌を見た。 「あ! 顔は撮っちゃダメだって言っただろ」 「これはアップしないよ」 「交代、今度は僕が撮る」  まだもう少し、と伸びてくる玲衣の手から煌は逃げる。  交代、交代、と玲衣が追いかけてくる。二人はじゃれ合う二匹の子犬のように浜辺を駆け回った。 「煌」  玲衣が煌に微笑みかける。 「これからもずっと一緒にいようね」  煌はスマホから顔をあげ、玲衣を見た。 「おう」 「じゃあ、指切りしよう」  玲衣が手を伸ばしてきたので手を出すと、玲衣はすかさず煌からスマホをかすめ取り構えた。 「激写!」  笑いながら玲衣がシャッターを切る。  太陽の光が、青い空とそこに浮かぶ入道雲の白さが、潮風が、そして玲衣の笑顔が、眩しかった。  自然と手が伸びた。  気づいた時には玲衣を抱きしめていた。  煌の腕の中の玲衣は甘い潮の香りがした。 「……煌?」  この状況を説明する言い訳を考えなくては。  もしくはすぐに玲衣から離れなければ。  そう思うが、煌は動けないでいた。  玲衣が好きだ。  さっきからその言葉が頭の中でぐるぐる回り、玲衣を抱きしめる腕にますます力が入る。 「煌……苦しいよ……」  その声で、煌は玲衣から飛び退いた。 「ご、ごめんっ」 「……どうして謝んの?」 「いや、だって……」  どんな言葉も玲衣から見透かされそうだった。  自分の抱いている淡い恋心と、そして後ろめたい欲望。  頭を垂れ足元を見つめていると、玲衣の言葉が降ってきた。 「お腹すいた、食料を調達しに行こう」  何事もなかったかのように玲衣は歩き出す。  煌は躊躇いながらも、その後を追った。

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