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第22話

 次の朝、二人は辺りをぶらぶら歩いてみた。見上げるとそこには夏空が広がっていて、立派な入道雲が二人を見下ろしていた。  町の至る所に〝日本最南端〟という言葉が見られ、通りには人は少なく、時おり観光客がスマホを片手にうろついているのが見受けられた。    ここもまた、少し歩くと海があった。日本最南端を謳うスーパーがあったので食パン一斤とジャムを買って日本最南端の岬で食べた。  それから、再び目的なくぶらぶら歩いていると、空き家を見つけた。白い壁に青い屋根のその家は、以前観光客相手にペンションでも営んでいたのか、入り口のところに〝ようこそ、日本最南端の宿へ〟と書かれていた。 「ね、煌。ここ開いてるよ」  玲衣が勝手口と思われるドアを薄く開け、こちらに向かって手招きをしている。 「本当に空き家なのか?」  そう言いながらも、恐る恐る中へ入ってみる。中は広くて食堂と思われる場所には大きなテーブルが置かれたままになっていた。  居間にはピアノまである。テーブルにもピアノにも白い埃が積もっており、空き家にせよ、所有者がいるにせよ、この家が長く使われていないことを物語っていた。  二階には同じような部屋が三つあり、それぞれの窓から海が見渡せた。各部屋にベッドが置かれたような形跡があったので、やはりここは宿泊施設だったのだろう。 「ね、煌、今日、ここに泊まろうよ」  煌もまさに同じことを玲衣に言おうと思っていたところだった。幸い周りに人家はなく、嬉しいことに敷地内には井戸があり、手動のポンプを動かしてみると水口から勢いよく澄んだ水が吹き出した。  家の中をあさると、鍋と鉄板が見つかった。客にそういう料理を出すのを売りにしていたのか、台所にはかまどがあった。 「これで火さえあれば、料理ができるのになぁ」 「煌、料理できるの!?」 「パスタくらいなら」  煌の母親がほとんど料理をしない人だったこともあり、煌は子どもの頃から簡単なものぐらいなら作れるようになっていた。とはいえ、最近はもっぱらモスかコンビニだったが。 「火を起こそうよ。煌の手料理食べたい」  二人は外に出て庭や家の周辺に落ちている枯れ木を集めた。それからスーパーに行って百円ライターと食材を買った。  パスタ、油、塩胡椒、ニンニク、鷹の爪。 「これで何作んの?」 「ペペロンチーノ」 「煌、すごい!」  すごくなんかない。たかがペペロンチーノだ。けれど、玲衣に褒められると素直に嬉しかった。かまどから炎が立ち上った時は二人とも飛び跳ねて喜んだ。  そうして山盛りのペペロンチーノが出来上がった。玲衣は今まで食べたパスタの中で一番美味しいと煌を褒めちぎり、三杯もおかわりをした。 「ねぇ、煌。このままここに住んじゃおうよ。庭で野菜とか育ててさ、海で魚や貝を獲って自給自足すんの」  煌は想像した。海が見えるこの家で玲衣と一緒に暮らす毎日を。 「いいな、それ」  YouTubeで稼ぐのは失敗したが、今度こそどうにかなるかもしれない。実際にこうやってかまどで食事も作れたし、マテ貝を獲った経験もある。  それから、二人は自給自足生活に向けて興奮気味に語り合った。野菜の他にニワトリも飼って卵を産ませようとか、それらを売って現金収入を得ようなどと、夢はどんどん膨らむ。  暗くなってくると、戸棚の中にあったキャンドルを灯した。

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