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第26話

「玲衣、仕方なかったんだ、だって俺らの金はもう底をついてて」  嫌われてもいいと言いながら、往生際悪く言い訳をしてしまう自分は本当に格好悪い。けど、玲衣がもう自分と一緒にいたくないと言い出すのが怖かった。  パチリと見開いた玲衣の目に、ある決意が生まれているのが分かった。 「煌、明日からは」  煌は身構えた。 「僕もやる!」 「は?」 「僕も煌と一緒に万引きする、だからやり方教えて」 「いや、それはちょっと」 「そうだよ、その手があったんだよ、ちまちま自販機のコインなんか拾わなくたってさ、もっと早くからこうしとけばよかったんだよ」  煌は最初呆気に取られていたが、次第に腹の底から笑いが込み上げてきた。 「何がそんなにおかしいんだよ、煌」  頬を膨らませる玲衣を抱きしめたい衝動を抑えるのに苦労した。  俺の玲衣は最高だ。  やる気満々の玲衣は体調まですっかり良くなり、次の日から煌と一緒にスーパーで万引きをするようになった。  玲衣はあっという間にコツを掴み、時には煌より大物を盗むこともあった。  二人は置き引きもするようになった。玲衣が話しかけている間に煌が盗むという、典型的な二人組みのやり方だ。  万引きも置き引きも、同じ場所で繰り返しやるのは危険なので、電車に乗って他の町にも出かけるようになった。 「ねぇ、煌、自給自足もいいけど怪盗もよくない? ルパンとかマジック快斗とかカッコいいよね」 「そうだな」  玲衣はしっかりしているようで、案外夢見がちで子どもっぽいところがあるのだと、最近は分かってきた。 「あ、なんか馬鹿にしてない?」 「してないよ」  煌は目を細めた。  そんな玲衣も可愛くて好きだ。  玲衣の全部が好きだ。  玲衣のどこをとっても愛おしくてたまらない。  玲衣と一緒の逃亡生活はいつでも幸せだったが、飢える心配も寒さに凍えることもなかったこの時が、一番楽しかったかもしれない。  しかし、ついにその日はやってきた。  その日、二人は油断していたと言ってもいい。他の町で五万円もの大金が入った財布を盗んだ帰り、スナック菓子を万引きするためにいつものスーパーに寄った。  買う金は十分にあった。けれど万引きできる場所でわざわざ買うのは馬鹿らしかった。  煌がそれに気づいた時は、盗品をポケットに忍ばせ店を出ようとする玲衣に、スーパーの保安員がすぐそこまで迫っていた。  煌はとっさに近くにいる中年女性のバックをひったくった。 「キャッ、ドロボー!」  わざと保安員の方へ逃げた。驚いて振り返った玲衣と目が合う。  行け!  目で合図を送った。玲衣はわずかに首を横に振った。  俺は大丈夫だから!  煌は立ち止まり、からかうように保安員に手招きすると走り出した。  煌は長いことスーパーの事務所にいた。  囮になったはいいが、結局逃げきれず、保安員に捕まってしまった。  玲衣のことも散々聞かれた。  正直に答えたら警察には通報しないと言われたが、煌は「知らない」を突き通した。保安員が言うことなんて鼻から信用していなかった。  けれど、スーパーの人に今まで何度も二人が一緒にいたところを目撃されていたこともあり、もうこの町には住めないなと、煌は事務所のチカチカと点滅する蛍光灯を見ながら思った。  煌は貝のように口を閉ざし、自分の名前も歳も家がどこかも、一切しゃべらなかった。  特に保護者という言葉が出た時、「親はいません」煌はそうきっぱりと答えた。  警察も怖くはなかった。  玲衣を失うこと以外、煌に怖いものはなかった。  そして一番大事なことは、玲衣を守ることだった。  もう誰にも玲衣を傷つけさせない、玲衣に辛い思いはさせない。

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