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元々乗り気ではなかった地元の夏祭りに段々と嫌気がさしてきて、俺はトイレに行ってくると言い、一緒に来た友人たちから離れることにした。祭り自体が嫌いということは一切なく、ただ今日の行動を共にする友人たちがどうしても苦手だった。さっきまで巻き付かれていた腕には、濃く甘ったるい香水の匂いが染み付いていて鼻が曲がりそう。
並ぶ屋台に賑わう人々から少し離れ、新鮮な空気を吸いたくなった俺は、人気のない雑木林のほうへ行ってみることにした。確か大きな石があって、小さい頃にその上に寝転んで星を見たことがある。夜のひんやりとした空気で冷たくなった石がとても気持ちよく、快適な秘密基地を見つけたようで嬉しかったのを覚えている。
ただ幼い頃の記憶は曖昧なもので、一緒にそこで星を見ていた友人であろう子には、もやがかかっていて顔を思い出すことができない。断片的な記憶ばかりでそれを繋ぎ合わせることも難しく、そう言えばこの夏祭りには毎年来ているというのに、どうして今になってすっかり忘れていたその記憶が浮かんで来たのか不思議でならなかった。
「……ふぅ」
だいぶ奥まで歩いてきたのだろうか。祭りで騒ぐ人たちの声がほとんど聞こえなくなり、肌寒くなった。
「こんな奥まで来たっけなぁ。あの大きな石はそう遠くになかったと思うんだけど」
不気味で怖いという印象はないけれど、奥まで来てしまっては戻るときに苦労しそうだ。そろそろ引き返したほうが良い気がしてきて、前へと進めていた足をそこで止め一歩後ろに引いたとき、これまでずっと静かだった雑木林を突然に強い風が吹き抜けた。
頬に風が突き刺さり、痛みで思わず目を閉じる。けれどその風は一瞬で落ち着き、目を開くとそこには、あのときの大きな石があった。それは記憶の中のものより小さく、この程度の大きさだったかと思ったけれど、多分俺が成長したからそう見えるだけでサイズは変わっていないだろう。何となく思い出したものだったのに、いざ目の前に現れると懐かしさが込み上げてくる。
……って、あれ? この石が見つけられなかったから祭りのほうへ戻ろうとしたはずなのに。どうして今、目の前に石があるんだ? 現れたって、よくよく考えなくてもおかしな話じゃあないか。
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