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「……っ」
途端に心臓が騒ぎだし、自分のその動揺っぷりにまた動揺し、体が震えだした。寒気がしてきて、足が動かない。そうしていると後ろから誰かの足音が聞こえ、あまりの恐怖に腰が抜けた俺は、振り返ることもできずにその場にへたりこんでしまった。
「英(すぐる)」
「……え?」
けれど、俺の後ろにいる誰かが俺の名前を呼ぶ。英、と、懐かしくてたまらない優しさを含んだその声に、俺は思いきって振り返った。
「ヨウ!」
暗がりの中に見えたその誰かと視線がぶつかった瞬間、もやがかかっていたあの子の顔がはっきりと浮かび、断片的であった記憶がきれいに再生され頭の中をぐるぐると回り始めた。名前は何だったけ、と悩む一瞬の間もなく、俺の口は「ヨウ」と名前を叫んでいた。頬にある傷もそのままで、記憶の中のヨウと違うのは高くなった身長だけだ。……着ている黒い着物も、あのときと変わらないデザインで、せっかく楽しい夏祭りなのだから、もっと明るい色を着ればいいのに、と言った言葉も思い出した。
あの日、夏祭りに一緒に来ていた学校の友人たちとかくれんぼをすることになって、俺はこの雑木林へと足を踏み入れたんだ。そうして歩いていたら、ヨウに出会った。
一人で何をしているの? と俺が声をかけると、『俺が見えるんだな。変なやつ』ってヨウが笑った。見えるとか見えないとか何を言っているんだと、俺はヨウの手を握って一緒に遊ぼうよと誘うと、ヨウはニカッと笑って俺の手を握り返し、そのまま歩き始めた。
『とっておきの場所があるんだぜ。今日は特別にお前にも教えてやる』
とっておきの場所、特別、その言葉に惹かれてヨウと歩いていけば、この大きな石を見つけて。友人たちとのかくれんぼはすっかり頭から消えていた。俺はヨウに助けられながら何とか登り、そこから空を見上げればキレイな星空が広がっていたんだ。
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