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「お前から全ての記憶を消して、思い出せないようにしていたのになぁ」 「ヨウ……?」 「うっかりここに来てしまっても俺の力でこの石を消していたのに、今日はお前からする嫌な匂いのせいでうまく力を扱えなかった」 何を言っているんだと、ヨウへ手を伸ばしかけたとき、何かで殴られたようなひどい痛みが頭を襲い、俺はその場に倒れた。 『英は俺の特別だから、俺の秘密を教えてやる。どうせ消してしまうから教えたところで忘れるんだけどな』 『秘密? 消す?』 『まぁ見てろよ。俺の背中……』 寝転んで見上げていた星空に、黒い影が浮かんだかと思えば、ほのかなものだった月の光がその黒い影へと集まって。眩しさに思わず目を閉じるも、呼ばれた自分の名前に反応して恐る恐る目を開いた。そうしたら、その黒い影は、隣に寝転んで星空を見上げていたはずのヨウで、彼は宙に浮き、背中には大きくて黒い羽がついていた。 『ヨウ?』 『俺のこと、ちゃんと見えてる?』 『見えてるよ、でも、どうして、羽、ヨウの背中に、』 『俺、人間じゃあないんだ』 『えっ』 『お前にない羽がついてるだろう?』 『でも、』 『俺が怖い?』 『ヨウ……、どうして、』 『消してしまう前に、お前に見てほしかった。今日はありがとうな。人間の話が聞けて面白かったよ。……バイバイ、英』 すべてを思い出すと、ひどかった痛みは消え、顔をあげればヨウが俺に手を伸ばしていた。その手を迷うことなく掴み、立たせてもらうと、俺はヨウの胸に思いっきり飛びついた。自分でも驚いている。さっきまで腰を抜かしていたのに、その原因であるヨウに触れることを全く怖いと思わない。温もりを感じて安心さえしている。 「英……? 俺が怖くないの?」 「それ、昔も聞いてきたけど、あの時だってびっくりしただけで怖かったわけじゃあないんだよ。どっからどう見ても人間なのに、ヨウには羽があるし、浮いているしで、幼い俺の頭じゃあ理解するのには時間がかかるに決まってるだろ?」 「相変わらず変なやつ」 「お前に名前を呼ばれたとき、すげぇ懐かしく感じたし、会いたかったってそんな気持ちが込み上げてきた。だから俺、お前が消したっていう記憶の中で、お前に対して恐怖なんかこれっぽっちも持ってなかったってことだと思う」

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