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第40話

「レグラス様?」  首を傾げてレグラス様をじぃっと見つめると、彼は自分の左手で口元を覆い隠し、するりと僕から視線を逸らした。  でも右手は変わらずに僕の手を握ったままだ。  その手の温かさは僕に凄く安心感を与えてくる。僕はその手に勇気を貰い、そのままレグラス様から目を逸らさずにいた。  するとレグラス様は「降参」とばかりに、口元から手を離し視線を逸らしたまま僕に掌を向けてきた。 「……そんなに見つめられると、こう……罪悪感が湧くんだが……」 「ーー罪悪感ですか?」  意外な言葉に、僕がオウム返しに繰り返すと、レグラス様は「ふぅ……」と息をついて目を合わせないまま話し始めた。 「その……なんだ……。私もまだ成人前だったし、君もまだ幼かったというのもあるのだろうが……。君から魔力を貰っても、媚薬としての効果はなかった。それは本当だ」 「そうなんですね」  初めてレグラス様とお会いしたのは、僕が五歳の時だ。身体の発達的にも未成熟だし、まぁ媚薬として作用しなかったのなら何より。  でもレグラス様は、何故こうも動揺したままなんだろう?  そう思っていると、彼は如何にも渋々といった(てい)で僕に視線を戻した。 「まったく……。君は口ではあまり意見を言わないくせに、何故そうも目でものを言うんだ……」  ちょっと言い掛かりじみた言葉だったけど、そう言うレグラス様は少しだけ不貞腐れているように見えて、僕はクスクスと笑ってしまった。 「注視は猫の習性だから問題ないって、レグラス様が言って下さったんじゃないですか」 「…………確かに言ったな」  片眉を跳ね上げたレグラス様は、やがて諦めたように僕の頭にぽんと手を乗せた。 「媚薬効果はなかった。ただ、ある種の執着心のような感覚が湧いたのは否めない」 「執着心?」 「ある意味、媚薬と効果は似てるのかもな。是が非でも君を手に入れたいと思ったんだ。これは、私のモノだ……とね。流石に君は幼かったから、怖がらせたくなくて態度には出さないように自重したんだが……」 「ーーが?」 「主治医として留学先に付いてきたダレンに言わせると、当時の私は随分君を猫可愛がりしていたようだ」  その信じ難いレグラス様の言葉に、僕は何回も瞬いてしまった。 「………………レグラス様が?」  だって、あんまり表情が変わらないレグラス様が、だよ?  猫可愛がりって……。  一体どんな顔をして可愛がってたの?  え、まさか無表情で?

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