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第39話

「レグラス様?」 「『魂の半身』の言い伝えはともかく、魔力の相性がいい相手というのは確かに存在するそうだ。「相性」の定義は個人によって違うから、明確な言葉として残ってはいないが……。その相手は、豊富な魔力を持つ獣人に現れやすいと言われている」  レグラス様の話がなんとなく見えてきた僕は、彼の揺れる瞳をしっかりと見つめ直した。 「皇族はその相手を探すべく、アステール王国へ行く。その手段が留学の形だった」 「ああ、だから……」  僕は納得して頷いた。アステール王国からは王族を含む四大公爵から留学生を選ぶのに、何故帝国からは毎回皇族が来るんだろうって思ってたんだ。 「私が初めて君と会った時、君は魔力を暴走させる寸前だった。だから君の承諾なしに魔力を奪った訳だが……」  そのレグラス様の言葉に、僕は少し前に見た夢を思い出した。  母様が居なくなって淋しくて悲しくて、感情が昂ぶってしまい魔力が暴走しそうになったあの時。  僕を助けてくれた『ラス』様と出会ったんだ。 「あの時……僕は子供過ぎてちゃんとお礼を言えてなかったと思うんです。お陰で魔力を暴走させずに済ました。ありがとうございます」  僕の言葉に、レグラス様はゆるりと首を振った。 「いや、あの出来事があったから、私は君を見つける事ができたんだ」 「見つける?」 「魔力の相性がいい相手……それが君だ」  意外な言葉に、僕は大きく目を見開いた。 「僕の魔力が多いからじゃないんですか?」 「相手の魔力を奪う力は私固有の力だから、他とは比べようがない。だから私の言葉を信じるかどうかは君次第だ」  その言葉に、僕はぎこちなく頷しかなかった。そんな僕をレグラス様は、少しだけ困ったように眉毛を寄せて見ていた。 「……僕と、それ以外の人の魔力では、何がどう違うんですか?」 「そうだな……」  レグラス様は言葉を探すように視線を巡らせ、改めて僕に視線を戻した。 「他の人間の魔力は、私に馴染まない。勿論奪ったあとは、魔管に魔力が補充されるから、身体に起きている症状は緩和される。だが、他人の魔力だからか、反発する感覚があるんだ」 「お薬の副反応みたいなものでしょうか……」 「それに近いのかもしれない。君の魔力の場合、先ずその反発がない。そして魔力が魔管を満たした時の感覚が、何と言うか……独特、なんだ」 「独特ですか……?」  凄く微妙な言い回しに、僕はちょっとだけ嫌な予感がした。 「君の魔力は、私にとって媚薬みたいなものだ。昨日私は魔力枯渇から発情したわけだが、その後は君の魔力に当てられて君を手放す事ができなかった」  その言葉に、僕は途端に真っ赤になって俯いた。  僕の身体のあちこちに散らばっている鬱血跡、あれがレグラス様が吸った跡だとすると、随分際どい所にも付いていたのを思い出して恥ずかしくなってしまう。 「恐らくこの発情状態になるからこそ、運命に定められた『伴侶』と言われたのだろう」 「た……確かに……」  言い方は悪いけど、媚薬を盛られた人間と襲われた人間ってことだよね、これ。  ………あれ? 「ーーレグラス様、留学中は僕の魔力を貰って、体調の不調を感じる事がなかったって話しませんでした? その時は、その……、媚薬……効果は大丈夫だったんですか?」  その時、レグラス様ははっきりと動揺を顕にして、言葉を詰まらせていた。

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