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第38話

「フェアル」  僕を呼ぶと、レグラス様は僕の右手を握った手に力を少し籠めて、ゆっくりと話し始めた。 「君の国、アステール王国には『運命の番』って言い伝えがあるらしいね?」 「あ、はい」  レグラス様の脈絡のないその問に、僕は目を白黒させて頷いた。 『運命の番』、確かにそんな伝承……というか、お伽噺があるにはある。  でも、それって当事者以外は真否を確かめようがないし、正直眉唾もののお伽噺としてアステールの国民には知られていた。 「でも、『運命の番』は信憑性のないお伽噺だと言われてます」 「そうだろうな。人一人の人生を運命なんかに定められてたまるか」  ひやっとした空気を醸し出してレグラス様は言うと、改めて僕の瞳を覗き込んできた。 「ただ、人族側にも似たような伝承がある」 「『運命の番』と、ですか?」 「ああ。『魂の半身』と言うらしい。元は一つの魂が二つに分かれたものであり、その魂を持つ者は運命に定められた伴侶となる……そういったものだ」 「確かに『運命の番』と似てはいますね」  運命の番は神様が定めた伴侶ではあるけど、運命付けられた相手という意味ではよく似た設定だった。 「ああ。それで、だ。この帝国において魔力系の疾患を持って生まれる人族が一定数いる。その疾患を患った者は、魂が二つに分かれたからこそ、完全な身体を持たないで生まれる、とも言われている」 「それって……」  僕はびっくりしてぱちぱちと瞬いてしまった。  魔管不一致症のレグラス様にも当てはまる事じゃないか。  僕はが考えている事はレグラス様にはお見通しだったらしく、彼は左の指で僕の目の下をすりっと撫でた。 「君は驚くとよく瞬くんだな」  少し笑いを含んだような声に、僕はかっと頬を火照らせた。  本当に僕の尻尾も耳も、そして目も感情を隠せないんだから……。 「フェアルの考え通り、私もその眉唾もののお伽噺の該当者になる。そして何故か皇族の血を引く者には、割と魔力疾患を患う者が出やすいんだ。私もそのクチだった」 「レグラス様のお父様が先の皇弟殿下でしたね」 「ああ。そしてそのお伽噺には、皇室限定での続きがある」 「続き……ですか?」  僕が首を傾げながらレグラス様をじっと見つめると、珍しく彼のアイスブルーの瞳が迷うようにゆらりと揺れた。

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