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第37話

 レグラス様のアイスブルーの瞳をじっと見つめ返していたら、ダレン様が口を開いた。  「フェアル、今、閣下に君から魔力を吸い取っていたのは、私がお願いしたからだ」  「はい」  「理由はね、君から閣下魔力を移譲する事が、互いのためになると判断したからだよ」  そういうと、ダレン様は僕に丁寧に説明をしてくれた。  レグラス様の魔管不一致症に対しては、僕の魔力を移譲する事で彼の体調が整うこと。  僕の魔力過多に対しては、魔力をコントロールするための魔筋が七歳から発達しておらず、上手く魔 力が使えなくて暴走するリスクがあること。  魔力暴走を防ぐためには、レグラス様に魔力を渡し、少量の魔力だけを身体に巡らせて魔筋の成長を促しコントロールする術を身につける必要があること。  互いが互いを補うことで、より身体を正常化できる。その説明を聞いて、僕はレグラス様にとって迷惑な存在だけじゃないかもしれない、僕でもレグラス様のお役に立てるのかもしれない、と目が覚める感じがした。  「相互利益の関係、というと事務的なイメージになるけどね。二人が協力できれば、二人とも体調が良い方に向かうって事だし。だから君に定期的な魔力移譲をお願いしたく……」  「やります!」  だから、ちょっと食い気味に返事をしていまい、慌ててダレン様に謝罪した。  「す……すみません、気がはやってしまって」  「いいんですよ」  クスクス笑ってくれたダレン様は、僕の頭にポンと掌を乗せた後、すっと立ち上がった。  「閣下からも治療に関して協力してくれると言質をとってますからね。安心してね。定期的に診察には来るから、困った事があれば必ず言うんだよ?」  僕はダレン様を見上げてしっかりと頷いた。  「そして、閣下も。私の言葉、忘れていませんよね?」  「ーー当たり前だ」  「では、ちゃんと説明をしてあげて下さい。私はこの後ガラガント君に用事があるので失礼しますね」  綺麗な仕草で一礼すると、ダレン様は退室していった。  その後ろ姿を見送りながら、僕の気持ちは少し上向きになる。  『僕』だから必要って訳じゃないけど、僕だってレグラス様の役にたてるなら、それはとても嬉しい。  頑張って治療に協力していたら、もしかしたら『僕』がいて良かったって思って貰えるかもしれない。  それは、長く誰からも必要とされず、存在を疎まれていた僕にとって、『そこに存在してもいいよ』って許しのようで凄く心が弾んだ。  「では、フェアル。私とも話をしよう」  そうレグラス様に声をかけられて、僕ははっと我に返った。  そういえば、レグラス様とのお話も途中だったんだ。僕が泣いてしまって中断した話を最後まで聞く必要がある。  僕はレグラス様の方へと身体を向けて頷いた。  「宜しくお願いします」  もう、どんな話を聞いたって動揺なんかしない。そう心に誓った。

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