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第42話

 うっとりと聞き惚れてしまうような低音の声で囁かれ、僕の背筋がゾクリと粟立つ。  僕がチラリと視線を流して見ると、こちらを窺うように見るレグラス様と目が合った。その瞳は真剣な光を宿していて、僕から外れる事はない。  レグラス様の美しいアイスブルーの瞳に見惚れつつ、僕はゆるっと目を細めて浮かされたような心持ちで口を開いた。 「僕……頑張りますね」 「ーー側にいて欲しい……の意味を理解してないな、君は」  レグラス様はちょっとだけ何とも言えない顔になって呟いた。 「意味……ですか?」  僕が首を傾げて彼を見ると、レグラス様はほんのり苦い笑いを浮かべた。 「いや、いい。君には時間をかけて理解してもらおう。さ、おいで。先ずは食事だ。昼も随分過ぎてしまったが、何か軽く食べよう」  そう促された僕はぱちぱちと瞬きながらも、レグラス様の言葉に素直に従った。    ★☆★ 「ほら、フェアル、これも食べて」  切り分けられ美しく皿に盛り付けられた鶏肉が目の前に置かれる。僕は隣に立ち給仕をしてくれているソルを見上げた。 「ソル、ありがとう」 「どういたしまして。それ塩レモンの味付けだから、サッパリして食べやすいよ」 「うん」  ニコッと笑いながら料理を進めてくれるソルに、僕も笑みを返す。  サグ達とは、レグラス様を噛んでしまった時に顔を合わせたのが最後だ。僕はダイニングに来て、彼らが居るのを見て少しきまり悪くて視線を泳がせてしまった。  でもサグもソルも、そんな僕の態度に気を悪くすることなく、にこにこと微笑んでくれた。  身構えていた僕だったけど、二人のいつもと変わらない態度に安堵の息をついていると、ソルは流れるような動作で僕を椅子に座らせた。  そしていつも通り、僕の側で給仕に徹してくれている。 「ほら、俺を見てないでちゃんと食べろよ」  そうソルに促されて、僕はカトラリーを持ち料理を食べ始めた。  ジューシーなお肉を味わいながら、目の前の席に座るレグラス様をチラリと見てみる。すると間髪を入れずレグラス様が視線を僕に向けてきた。 「どうした?」  さすがレグラス様、テーブルマナーは完璧で美しく食事をしながらも、周りの様子は油断なく窺っているらしい。  僕は少し考えてから話を切り出した。 「あの、僕が描いた魔法陣の事なんですけど……」  今回の騒動の発端となった魔法陣。レグラス様の描いたものをお手本にして僕も描いてみたんだけど、それが異常にレグラス様の魔力を吸い取ってしまって、今回の魔力の枯渇に繋がったんだ。  気持ちに余裕が出てきたら、やはりあの事が真っ先に気になってしまった。 「あんな事態を引き起こした原因が気になるんです。学院での特別学科の選択で、魔法陣学も面白そうだと思っていたんですけど。でももし僕が原因なら、それも難しいのかなと思って」 「ーー問題はない」  僕の話を黙って聞いていたレグラス様は、僕が言葉を切るとあっさりと返事を寄越した。 「原因は今、ダレンが調べている。それと君の学業に、あの出来事が影響することはない。君は君のしたい事を選べばいい」

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