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第30話 歴史は、夜に作られる。(10)
3ー10 目覚めのキス
冬がきてもカークは、俺のもとには来なかった。
手紙もこない。
俺は、いらいらしていた。
ルトに当たり散らしたり、かと思えば部屋に一人こもってぼぅっとしていたり。
「どうしたんだ?ルシウス」
「あっ・・」
俺は、シャルに抱かれながら知らず知らすのうちに涙を流していた。シャルは、俺を抱く手を止めると俺の涙を指で拭った。
「最近、気が入ってないな」
「・・ごめん、シャル・・」
俺は、慌ててシャルに謝った。シャルは、俺を抱き締めると俺の頬をそっと撫でた。
「いや、いいんだ。ただ、元気のないお前のことが心配なだけだ。いったいどうしたんだ?」
俺は、シャルにカークとのことを話した。
カークが俺を身請けしようとしていたこと。それがダメになったことも。シャルは、黙って俺の話をきいてくれていたが、やがてため息をついた。
「実は、私もアンリにお前の身請けの話を断られたんだよ、ルシウス」
はい?
俺は、シャルを目を丸くして見た。
シャルが俺を身請け?
「そう、驚かなくてもいいだろう?」
シャルは、少し頬を赤く染めて俺に話した。
「お前は、私のことを受け入れてくれた。体の相性もいいし、何より私は、お前のことを愛している」
「シャル・・」
シャルが俺の頭にキスをした。
「だが、アンリは、私にもお前を売るきはないと言った」
「そう、なんだ・・」
俺は、シャルの胸に顔を埋めて泣いていた。
アンリは、何を考えているのか?
「安心しろ、ルシウス」
シャルが俺の頬にキスを落とした。
「必ず、いつかは、アンリを頷かせてみせる」
「シャル・・」
その日、シャルは、俺を優しく優しく抱いた。俺が泣きつかれて眠るまで抱き続けた。
翌朝。
俺は、シャルの腕の中で目覚めた。
こんなことはシャルとは初めてだった。
シャルは、必ず夜の内に俺のもとから去っていたのに、この日は、朝まで俺を抱いてくれていたのだ。
俺は、シャルの気持ちが嬉しくて。
眠っているシャルの頬や目元、額にキスをした。最後に唇にも。
「ルシウス」
「お、起きてたの?シャル」
シャルは、体を離そうとする俺を抱き寄せると額にキスをして微笑んだ。
「ルシウスからキスをしてくれるなんて初めてだったからな」
「それをいうなら、シャルだって!」
俺は、そのまま言葉を飲み込んだ。シャルは、俺を抱き締めてキスを続けた。
俺も。
シャルの優しさに触れて暖かい気持ちになっていた。
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