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第31話 異界の徒

 4ー1 春の祭り  冬も過ぎようとしていた頃、ルトがしばらく休暇をとりたいと告げてきた。  ルトが休暇をとるのなんて珍しい。俺は、興味を持って訊ねた。すると、ルトは、答えた。  「もうすぐ春の祭りがあるから教会の手伝いをしたい」  休暇をとって教会の手伝い?  エイダース王国には、季節ごとに神殿関係の祭りがあり、特に、春の女神の祭りは、王国をあげてのお祭りでその期間中は、王都は、大変な賑わいとなる。  「なんでルトが教会の手伝いにいくんだよ?」  俺がきくとルトは、いつもと同じ無表情さで答える。  「孤児院の寄付を集めるために屋台を出すんだが人が足りないから俺も手伝いに行きたいんだ」  「ふーん」  相変わらず律儀な奴だ。  俺は、感心していた。  「で?なんの屋台を出すんだ?」  「果実水と飴の屋台だ」  果実水は、王国では普通に飲まれている飲み物だ。飴というのは、固形のものではなく練った水飴のようなものを棒につけたものだった。  どちらも珍しくもない、屋台の定番といったものだ。  「まあ、あまり売り上げは期待できないんだが」  ルトがいうには、毎年、売り上げは振るわず、残った品は、子供たちに配られるのだという。孤児たちにとっては嬉しいかもしれないが、孤児院からすれば毎年赤字らしい。  「だから、できるだけ身内だけで店を回さないといけないからな。俺みたいなのもあてにされるってわけだ」  赤字なのか。  そういや、ルトは、給金のほとんどを孤児院に寄付してるんだっけ?  「孤児院の経営って厳しいのか?」  俺がきくとルトは、頷いた。  「孤児院は、寄付だけで子供たちの生活を賄ってるからな。俺だってガキの頃は、食うや食わずのことも多かったし。まあ、雨風が防げる場所で寝られるだけましってとこだな」  マジですか。  俺は、少し考えてからルトに訊ねた。  「この辺りでムーラの実がとれる場所を知らないか?」  ムーラというのは、赤くて小さな果実で春に実をつけ、よくジャムにして食されるものだ。前世でいうところのイチゴによく似ている。  ルトは、小首を傾げた。  「そりゃ、王都の近くの森にならあるだろうが。どうするつもりだ?」  「いいから、それを山ほど採ってきてくれないか」  ルトは、有能で行動が速い。  その日の内には、背籠いっぱいのムーラの実を持ってきてくれた。  俺は、夕方から料理長に頼んで調理場を借りることにした。たまたまだが調理に使う飴もあったし、その夜は、俺は、暇だったし都合よかった。    

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