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第32話 異界の徒(2)
4ー2 ムーラ飴
俺は、水飴のような飴を鍋で煮てとろとろに溶かすときれいに洗って串に刺したムーラに回しかけ、それを乾かして固めた。といってもそんなに固まりはしなかったんだが垂れない程度には固まったのでよしとしよう。
俺がやってることをじっと見ていた料理長やルトに出来上がったものを渡して味見してもらう。
うん。
二人とも受けとったものの微妙な表情だ。
というのもムーラは、あまり生では食べられない。
それは、ムーラがすごく酸っぱいからだ。だから、みな砂糖で煮込んでジャムにして食べる。
「まあ、大丈夫だから、一口食べてみなよ」
俺が言うとようやくルトが飴でコーティングしたムーラを一口齧った。一瞬、酸っぱそうな顔をするがすぐに驚きの顔になる。
「おいしい・・」
うんうん、そうだろう。
俺は、満足げに頷いた。
ルトの様子を見ていた料理長もムーラ飴を食べて笑みを漏らす。
「酸っぱくない。ちょうどいい甘さですな」
俺たちは、このムーラ飴を大量に作ると今夜娼館を訪れている客たちや娼婦男娼たちに配った。みな、喜んで食べていた。ルトがとってきてくれたムーラは、一晩でなくなってしまった。
「これを孤児院の屋台で売ってみたら?」
俺は、ルトに提案した。ついでに祭りまでの間、娼館でも客に配ることをアンリに頼んだ。
娼館の客たちにきかれる度に俺たちは、このムーラ飴を祭りの間、孤児院の屋台で売ることを話した。
そのおかげで、孤児院の屋台は、祭りの間、ムーラの実が足りなくなるほど売れたらしい。
俺も手伝いに行きたかったんだがそれは、叶わなかった。俺は、アンリの奴隷だからな。この娼館から出ることは許されてはいない。
だが、ルトの言うことによるとしばらく孤児たちが食べ物に困ることはないということだった。
「どう礼をいったらいいのか」
改まって礼を言おうとするルトに俺は、にっこりと微笑んだ。
「いいんだって」
いつも世話になってるんだし、これぐらいのことはさせてくれよな。
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