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第33話 異界の徒(3)

 4ー3 老人  春の女神の祭りの最終日は、一年で一番日が長い。この日は、娼館の使用人や娼婦たちも町へと繰り出して祭りを楽しむ。だが、俺のような奴隷である娼婦や男娼は、娼館から出ることは許されない。  俺は、自分の部屋で一人本を読んですごしていたんだが、昼頃にアンリの使いの仲間の男娼に呼ばれてアンリの執務室を訪れた。  アンリは、危険だ。  俺は、カークのことでアンリを信じられなくなっていた。もともとが娼館のオーナーだし、信じるとかないけどそれでも俺の中には一縷の望みのようなものがあった。それがカークのことで完全にアンリを信じることができなくなった。  俺がアンリの執務室のドアをノックすると中からアンリの声が聞こえた。  「入りなさい」  俺は、ドアを開くと中へと入っていった。  執務室の中には、アンリの他に一人男がいてソファに座ってお茶を飲んでいた。  その男を俺は、ちらっと伺った。  白髪混じりの頭髪は疎らでところどころ禿げている。年は、はっきりとわからないが恐らく60才は、越えているだろう。体も枯れ木のように細く背は、くの字に曲がっている。しかし、身に付けている品は、どれも高級品ばかりだ。  老人は、アンリが俺をルシウスと呼ぶのをきくと顔をあげて俺を見て歯のない口許を歪めてにんまりを笑った。  俺は、嫌な予感がしていた。  アンリは、いつものようにソファをすすめると俺にその老人を紹介した。  「こちらは、ヤーナム商会の会頭グラム・ヤーナム殿だ」  「はじめまして、ルシウスと申します」  俺は、老人に向かって挨拶する。  俺は、怪しむようにアンリを見た。  ヤーナム商会というのは、この大陸で最大の商会だが、その会頭の正体は知られていない。  この老人が本当にヤーナム商会の会頭なのか?  俺がアンリを伺うとアンリは、口許に笑みを浮かべた。  「安心してくれ。この人は、間違いなくヤーナム商会の会頭のグラム・ヤーナムその人だよ、ルシウス」  なんで、俺のような者のところにヤーナム商会の会頭である人が?  俺は、ちらりと老人の様子を伺った。老人は、歯のない口許を隠すこともなく俺に笑いかける。  俺は、何か嫌な予感がしていた。  「では、私は、これで失礼します、ライアート伯爵。どうか、よろしく頼みましたよ」  老人は、俺をちらっと見てから立ち上がると部屋を出ていった。

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