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第50話 過去と現在(10)

 5ー10 最悪の夜  この娼館での宰相シャーウッド・フォン・レイヤーと大陸最大の商会ヤーマン商会の会頭グラム・ヤーマンの会談によって運送ギルドが創設されることとなた。  それは、この王国の物流を管理するギルドであり、商会などから請け負って荷物を運ぶことを生業とするものだった。このギルドの創設によりエイダース王国の物流は、変革された。  より安全で、速い物流によって国は、より栄えるようになる。  後にこの2人を出会わせた男娼ルシウス・エルタークが伝説の男娼と呼ばれるようになる原因の1つとされる出来事だった。  「これもすべてルシウスのおかげですな」  ヤーマン老は、新しいギルドの創設を祝うパーティーで宰相であるレイアー伯爵と談笑していた。宰相もまた、同意見であり、ヤーマン老の言葉に頷いてグラスを掲げた。  「まったく。我々の男は、素晴らしい」  2人は、ここにいない男娼のことを思って微笑みあった。  「本当なら、この場にルシウスも呼ぶべきなんですが」  少し顔を曇らせる宰相閣下にヤーマン老がうっすらと笑みを浮かべる。  「残念なことですな。しかし、私は、少し安心しておりますよ」  「というと?」  「あれを公の場に出していらぬライバルを増やさずにすみますからな」  「それは、そうですな」  2人の男たちは、酒を酌み交わしながらお互いの思い人を思い浮かべてうっそりと微笑んだ。  その頃、ルシウスは、アンリにまた執務室へと呼び出されていた。  また、どんな難題を持ち出されるかと身構えるルシウスにアンリは、重い口を開いた。  「お前に頼みがあるんだ、ルシウス」  「どんな頼みでしょう?」  ルシウスの問いにアンリは、ため息をつく。  「実は・・」    「やんごとなきお方、だって?」  俺は、驚きを通り越して怒りを覚えていた。  なんで、そんなものがこんな娼館にくるわけ?  というか、王族が連絡もなしでいきなりくるなっていうの!  俺は、部屋でルトと準備をしながら憤っていた。  まったく!  王族は、きちんとアポイントメントをとってから来て欲しい。  何より、王族は、娼館なんかに来ないで欲しい!  身支度を整えると俺は、貴族の微笑みを顔に張り付け、ルトに向かって頷いた。  ルトが合図を送るとしばらくして部屋をノックする音が聞こえ俺は、緊張に胃が重くなるのを感じた。  俺の人生で最悪の夜が始まろうとしていた。

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