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第59話 恋と愛と欲望と(9)
6ー9 あなたを手に入れる
建国祭の前日、王太子殿下がお忍びにて来店した。
なんで?
俺は、首を傾げた。
けっこう酷いことした筈なのになんでまた俺のところに?
アンリに案内されて現れた王太子殿下は、俺を見るといきなり抱き締めてきた。
「ルシウス」
俺をぎゅうっと抱き締めて王太子殿下は、涙ぐんでいた。
「ありがとう」
はい?
俺は、きょとんとしていた。
王太子殿下は、俺の手をひきベッドへとつれていくとそこに座るように促し自分も俺の隣に腰かけた。
「この前、あなたが言った通りだった」
俺は、王太子殿下に国王陛下の食欲がない理由は、もしかしたら食べたくないのではなくて食べられないのではないか、と進言していた。
この世界には、口腔ケアの考えはあまり発達していない。
歯磨きの文化はあるが、歯の治療というと虫歯を抜くことぐらいしかない。
「医者に診察してもらったら、父上の歯は、ほとんどなくなっていた」
歯がなくては、食事がとりにくいのは当然だ。
「それで、あなたが教えてくれた通りに父上の食事を柔らかくて食べやすいものに変えてみた」
俺は、この前のとき王太子殿下に柔らかい食事の作り方を簡単に教えていた。それは、肉を微塵に切って練り混ぜてつくるハンバーグもどきとリゾットのレシピだ。
「あなたに教えられたメニューをすすめると父上が美味しそうに食事をとりだしたんだ」
王太子殿下が言うには、それ以来、国王陛下は、どんどん元気を取り戻してきたということだ。
「本当なら、この建国祭で父上は、私に王位を譲るおつもりだったんだ。それが中止になった」
王太子殿下は、俺の手をとり微笑んだ。
「俺が王位につくのはまだ先のことになった。つまり、俺には、時間が与えられたわけだ」
「時間?」
「ああ」
王太子殿下は、俺にキスをした。ついばむようなキスを繰り返していたが、次第にキスは深まり、俺を貪った。
「ん・・」
激しいキスの後で、王太子殿下が俺に宣言した。
「私は、あなたを絶対に手に入れてみせる。あなたが汚れているというなら、その汚れごと、私は、あなたを受け入れるつもりだ」
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