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第71話 愛おしさが止まらない

 護に案内されて、行基と忍が詰めている場所に向かう。 「何で護は、碓氷さんと寝てる自分が、行基が作った木偶だって知ってたの?」  護がビクリと肩を揺らした。   「ちょっと話しづらいのですが。一緒に部屋にいた時に、卜部さんが私を呼びに来ましたよね?」 「ん、そうだね」  忍が行基と話し合いをしている間、直桜と護は同じ部屋で待っていた。  武流が護に、忍が呼んでいるからと声を掛けて連れ出した。  結果、直桜は部屋で一人、待機することになった訳だ。 「恐らく卜部さんは私を、そのまま碓氷さんの部屋に連れていくつもりだったんだと思います。けど、途中で行基が止めてくれたんですよ」 「行基が? なんで?」  かなり意外だった。  行基はどう考えても蜜白や武流の味方だろうと思う。 「行基は、卜部さんの真意を暴きたかったようです。卜部さんは恐らく碓氷さんに私を宛がうだろうから、木偶を身代わりにしていいかと聞かれました。卜部さんが直桜に現場を見せ付ける事態も予測していました」  武流から離して護に合意を得た行基は、木偶の護をその場で作って武流に合流させたらしい。  直桜は顔を顰めた。 「武流の行動は、行基の指示じゃなかったの? 真意、って。反魂儀呪の指示受けしてるのって、まさか武流なの?」 「そのようですが、詳細は行基から聞いた方が良いかもしれません。bugsと関りがありそうですが、私も途中までしか話を聞かずに部屋を飛び出してしまいましたから」  護が部屋を飛び出したのは、間違いなく直桜を止めるためだ。  『気枯れ』が直桜の神力だとすぐに気が付いただろうし、あの状況で動けたのも護だけだったはずだ。  つくづく申し訳ないと思う。 「私が浅はかでした。直桜ならきっと木偶に気が付いて冷静に対処してくれると考えていたので。多少、悩みはしましたが、行基にOKを出してしまったんです」 「せめて事前に教えてくれていたら……。いや、知っていてもダメだったかもしれない」  護が自分以外の人間を愛おしそうに抱いている姿を見て、冷静でいられる自信がない。あの場面を、言葉を、思い返しただけでも胸がざわつく。  蜜白の煽るようなセリフを思い出すと、殺意が湧く。 (例えば、武流が俺に鎖を掛けやすいように、俺の注意を引くためにわざとやったんだとしても、許せない。碓氷さん嫌いだ)  護が歩みを止めて、直桜を振り返った。  きゅっと抱き締めて、肩に顔を埋め、深く息を吸い込む。 「困りましたね。愛おしさが止まりません。直桜を傷付けるような行動をしたのに、ごめんなさい」 「謝らなくていいし、むしろ護は怒っていいと思う。俺が護を信じていたら、アレが木偶だって気が付いたはずだから」  蜜白のフェロモンにあっさり流された護を見ていたとはいえ、もう少し恋人の愛情を信用すべきだったと反省する。 「護がそういう人じゃないって、知ってるのに、ごめん」  こんな直桜を愛おしいと抱き締めてくれる護は、本当に優しいと思う。 「考えるより先に感情が動いてしまったんでしょう? 嫉妬してくれたんですよね。神様の嫉妬はレベルが違いますね」  護が悪戯に笑む。  危うく嫉妬で周辺の生き物を根絶やしにするところだったので、何も言えない。 「予想外だったせいか、直桜の嫉妬が嬉しくて、いつもより愛おしい。ずっと抱き締めていたい」  護が抱く腕に力を籠める。  こんなに感情を露に喜ぶ護も珍しい。 「もしかして直桜もフェロモン出してますか。そういえば、良い匂いがしますね」  護が直桜の首筋をスンスンと嗅ぐ。  息が掛かって擽ったい。 「ま、護、擽ったい、……んっ」  首筋にキスされて、ちゅっと音を立てて吸われた。 「冗談です。直桜の匂いは大好きだから、いつまででも嗅いでいたいですけどね」  唇を吸って、護が名残惜しそうに直桜から離れた。  自分から匂いが出ているのだろうかと不思議になって、スンスン嗅いでみる。  特に匂いはしない気がする。 (今のは、冗談かな。こういう勤務中って、普段はあんまりじゃれたりしないのに。俺が嫉妬したの、そんなに嬉しかったのかな)  直桜の手を握って歩き出した護に、自然とそのままついて歩いた。

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