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番外編 お互いの気持ち①
※響視点
◇ ◆
「響か麗、どっちかショーに出場しろ」
先輩の理央さんにそう言われたのは、定期ミーティングの時だった。
「え、俺恋人居るんで無理ですよ」
同僚の麗くんが恋人を理由に断ると、先輩の視線は俺に向けられた。
「恋人持ちには良くないわな。んじゃ、響。ショーは二ヶ月後だ、それまでにパートナーを見つけて出場する事、いいな」
「はぁ~い。見つからなかったら出ませんけど頑張ります~」
「見つからなかったら俺が攻めで出るよ。攻める側なら恋人も文句言わないだろうし」
「そりゃいい案だな。じゃあ響は必ずどっちかの立場で出る事。ルールの説明送るからしっかり目を通しとけよ!」
何の悪気もない同僚がそう言うと、先輩もそれに賛同した。送られてきたメッセージを確認すると、更に出る気が失せた。
「じゃあ今日は終わり、お疲れ」
俺がショーに出なければならなくなったのは、そういう会話が始まりだった。
ショーに出る人数も年々少なくなっているらしく、俺達のグループからも誰かは出ないといけないらしい。
理央先輩は最近出たばかりで、他の人達も出場済。あまり短期間で何度も出ると印象が良くないとされているらしく、出場経験のない俺と同僚に声がかかったというわけだ。
もちろんどっちの立場としても出る気なんてない。そんな謎の娯楽に付き合う意味が分からないし、出たいと思う人が出ればいいだけ。
そんな風に考えて当日もギリギリまで粘り、パートナー探してくる!と言って強引に外出した。
そんな中、出会ったのが恋人に思いっきり振られていた詩だった。
面白いくらいの最低男を前に、今にも崩れ落ちそうな程に悲しむ詩は、とてもか弱く見えた。
けど正直背も高いし顔もどっちとも取れるので、男か女か上手く判断出来なかった。とりあえず失礼にならない様に"女の人"と接する様に声をかけた。
声をかけても尚、少し高めな声色にパッチリとした瞳。どっちか判断つかなかったので、とりあえずご飯を食べに行く事にした。そこから俺の生活はその子一色になっていったのだ。
◇ ◆
目を覚ますと、詩が幸せそうな表情で俺の胸で眠っていた。
ショーに出ろと言われてから数ヶ月が経った今、俺はパートナーとして知り合った詩と付き合う事になり、一緒に暮らし始めた。
「…可愛い」
スヤスヤと眠る姿は毎朝めちゃくちゃ可愛くて、今すぐにでも襲ってしまいそうになるくらい。自分で言うのも何だが、詩も俺を大事に思ってくれていて、毎日幸せな日々を過ごしていた。
が。
俺は元々そんなに感情を表に出さないタイプで、付き合って少ししか経っていないが、既に何度か詩に指摘された。
『響くんってさー俺の事好きなのー?』
いつも冗談ぽく問われるが、言葉にすると言うことは少なからず本当にそう思ってはいるんだろう。
けど、相手に真面目に好きと言うのも恥ずかしいし、何より付き合った事が殆どない俺にとって、どう愛情表情していいのか分からない。
「…凄く好きなんだけどな」
俺の胸元で涎を垂らして眠る詩を抱き締めて頭を撫でると、詩も寝ぼけながらも嬉しそうにしがみついてくれた。
そんなある日、いつもの同じ日常を過ごしていた時の事。
「幸せすぎて俺溶けちゃいそう!」
「溶けたら?」
べったりといつも通りしがみついてくる詩に対して、俺もいつも通りの対応をした。
「響くん冷たぁい」
「ベタベタしすぎ。いつも一緒に居るのにまだ甘えたいの?」
「はいはい、もうくっつきませんよーだ!ちょっと出掛けて来ますぅ」
そこからは初めての出来事で。詩は頬を膨らませたまま出て行こうとした。いつもなら冷たいと言いながらもしがみついたままなのに。
少しだけ心配にはなったが、これ以上くっついていると襲いたくなるのでなるべく可愛い顔を見ない様に"行ってらっしゃい"とだけ告げると、むーと口に出しながら出て行った。
顔くらい見てやるべきだったかなと思ってももう遅いので、本を読みながらゴロゴロしていると、部屋の静けさが久しぶりに淋しいと思う様になった。
「……」
俺が一人でこの部屋にいる事は少なく、仕事の日もいつも俺より早く帰って来て笑顔で迎えてくれて、休みの日はずっとくっついていた。
久しぶりの静かな部屋に、落ち着かない。昔は静かな方が好きだったのに。
一人の時、今まで何していたのか思い出せないくらいに今は詩と過ごした時間しか思い出せない。
ゴロンとベッドへ寝転んでモヤモヤ考えていると、そのまま眠ってしまい、目を覚ましたら外は暗くなっていた。
「…久しぶりにいっぱい寝ちゃった…」
休日を上手く満喫出来ずに後悔してスマホを見ると、詩から特に連絡はなく、時間はすっかりと遅くなっていた。
楽しんでいても申し訳ないが夜遅いと心配なので着信を鳴らすと、すぐに電話へ出てくれた。
『あ!響くん!わぁ!もうこんな時間だ!遅くてごめんね!』
「…ん、楽しんでたならいいんだけど遅いから少し心配で。何時頃に帰って来る?迎えに行くよ」
『もうすぐ帰る!今から…っ』
『恋人ってどんな男なの?貸せよ』
詩とは違う声がすると、知らない男の声が聞こえてきた。
『あ、もしもし?さっきまで朝日と映画観てましたぁ。元彼でーす。コイツ甘えたで中々性欲強いけど、大丈夫~?ま、無理になったら俺がまた貰ってやるから』
は?何だコイツ。
ていうか何で今、詩は元彼と一緒に居るの?
一気に今まで感じた事がなかった気持ちが湧き上がると、すぐに電話を奪い返した詩が慌てた声で話し出した。
『違うの!響くん!たまたま映画観てたら会って…そんで、語るかってなってご飯来ちゃった!すぐ帰るから!ごめんなさい!コイツとは何もないから!今◯◯って店に居る!すぐ帰る!』
「…迎えに行く。すぐに行くから待ってて」
『うん!分かった!ありがとう!』
電話を切り、すぐに言われた場所へ向かうと、俺を見つけて走って来てくれた。
「響くん!」
「出かける前、ちゃんと顔見て行ってらっしゃい出来なくてごめんね。お休み楽しめた?」
「…楽しかったけど、やっぱりこうやって響くん見ると一緒に居たいって思っちゃう」
ぎゅうとしがみついてきてくれた詩に少しだけモヤモヤした気持ちがなくなった。
「……詩」
「ん?」
「…あのさ、ホテル行かない?」
「え!?行きたい!」
「…じゃあ行こうか」
手を繋いで一番近くのホテルへ入ると、詩は目をキラキラさせながらついてきてくれた。
ホテルへ入るなり、いつも通りしがみついてきてくれた詩を優しく抱き締めた。
「最近俺冷たかったよね?ごめんね、元々こういう性格で…大切に出来てる?」
「してもらってる!!今日一人で出かけたのは、いつも響くんに甘えてばっかだから一人でも居れるようにしなきゃと思ったからで。まぁ出かけたら出かけたですっげー楽しくてさ!満喫しちゃった!」
サバサバしているのはこの子の良いところなんだろうが、サラリと言われると少しだけモヤッとした気持ちが戻ってきた。
「……俺は、淋しかった」
「え!?」
「…普段出掛けてほしくないとか、そんなのないんだけど詩があんな感じで出かけたからちょっとだけ心配で」
「…えぇー?えへへ、嬉しい。淋しかったんだ?へぇ?」
「…何」
「可愛いなぁーって思って!」
すぐにニヤニヤ調子乗る所も、余裕が見えて悔しい。
「……そうだよ、詩が居ないと淋しいの。悪い?」
「悪くないけどさぁ」
「……それより何で元彼と居たの?電話の時すごくドキドキした」
「本当たまたま。映画観てたら会ってさ、今までデートしてた時とかよく行ってたから。ほんっとに俺が軽率でした!二度と偶然会ってもご飯に行きません!ごめんね?ヤキモチ妬いちゃった?」
「……ん、妬いた。妬いたからお仕置きさせて」
「いいよぉ?ねぇねぇ、ここのホテルさぁ!ベッドに手枷があるんだって!つけてよ!」
「何でそんなにテンション高いの?」
「だって響くん、最近誘っても全然じゃん。俺に魅力ないのかなーって不安だったんだからなーこれでも!」
「…毎日可愛くて抱きたいって思ってるよ」
「はぇ?その割には全く抱いてくんないじゃん」
「抱きたいけど気張っちゃってさ。すごく気持ち良くしてあげたいし」
「そういえばさ、響くんって何でキスとエッチは下手なのに前戯はあんなに上手いの?」
悪気はないんだろうが、下手だと言われて少しだけグサッときた。もちろん詩の顔は純粋に疑問に思っている様子。
「……俺、昔ウリ専で働いてたの」
「へぇ?なのに下手なんだ?」
「下手は置いといて…そういう所で働いてたの、嫌じゃないの?」
「え?だって昔の事でしょ?過去は変わんないんだから別に何も思わないよ!流石に犯罪とか、人を傷つけてたとかなら話は変わってくるけどさ」
「良かった。……まぁ、そういう訳だから前戯は下手ではない、はず。でもキスはNG出してたし、本番はダメだからエッチもした事なかった。だからだと思うよ」
「もしかしてだけど、俺が響くんのファーストキスと童貞貰ってた?」
「………まぁ、そうだね。だから下手ではあったと思う。ごめん」
途端にカミングアウトした事が恥ずかしくなり、俯くと、とても嬉しそうな詩が飛びついて来た。
「うわぁぁぁあ!めっちゃ嬉しい!響くんの初めて貰えてたなんて!いや、なんかごめんね?付き合ったのも俺が初めてなの?」
「…高校生の時に彼女は居たけど、俺こんな感じだから"好きじゃないの?"って言われてすぐ振られちゃったから」
「うわぁ…簡単に想像つくぅ。可愛い~」
「可愛くないから。…ずっと働いてた事言うか悩んでた。やっぱり偏見ある仕事だから。今はウリ専でボーイじゃないけど、キャストの人をサポートする様な仕事してる」
「教えてくれてありがとう!嬉しい!じゃあ早速お仕置きしてよ?」
「…望まれてするのはお仕置きにならないと思うけど」
これまでにないくらい嬉しそうにベッドに寝転ぶ詩に苦笑いが漏れてしまうが、優しく服を脱がしてやると少しだけ恥ずかしいのか恥じらう姿を見せた。
余裕ある中で見せる初々しい反応は凄く唆られる。
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