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第6話
「ねえねえ」
え?俺っすか?って、誰っ!
「君さ、この上の時臣くんの部屋にいるよね?」
派手な柄のシャツきて、きったない金髪の今どきロン毛。見るからにまともそうじゃない…んだけ…ど。
「あ、ごめんね。俺、時臣くんの友達で春樹って言います。驚かせちゃったね」
おじさんの友達?まあ、こんな人も友達にはいそうだけどさぁ…
「なんですか?おじなら今部屋にはいませんよ」
「おじ?君晴臣くんの甥なんだー。へえ〜そうなんだ」
なに…なんか値踏みされるみたいな目つきされた。
余計な事言わないほうがいいな…おじさんとか言っちゃってまずかったかな。探偵だし…危ない事じゃなければいいけど。
「あ〜時臣くんいないんだ。ざんね〜ん。じゃあ君でいいや、ちょっと僕と出かけない?」
は?
「え?なんでです?無理…」
「え〜俺時臣くんの友達よ?信じてよ」
信じてよって言う人は信じられないんだよ!
「ちょっとそこまでだからさ。買い物付き合って欲しいんだよー。知り合い見つけたから嬉しくなっちゃった。一緒に行ってよ」
「俺は知り合いじゃないですし…勉強あるんで行けません」
「つれないな〜いいじゃんいいじゃん?」
「おい、春樹。いい加減にしろ」
え?
「時臣く〜〜ん、久しぶり〜〜」
急に声変わったぞ…抱きつかれておじさん迷惑そうだ…そりゃそうだ。
「お前な、なんでここにいるんだよ。俺のそばに来るなって言ってあんだろうが。飛田 呼ぶぞ」
「えっそれだけはやめて、時臣くん」
やっぱおじさんだった。助かったー。この人キモくてやなんだよ。
「おい、ちょっと部屋に戻ってろ」
おいって、甥にかかってんの?
「え、あ…うんわかった」
アイスコーヒーまだ残ってんのにぃ〜
「あ、琴ちゃん。グラス借りてっていいかな」
「はい〜いいですよ〜」
おじさん!俺の心読んでくれたの?琴ちゃんは個人経営のこのお店の看板娘さん。マスターは琴ちゃんのおじいちゃんなんだって。
「ほれ。これ持って部屋行ってろ。俺はこいつを返してくるから」
返す?まあいいやキモかったし。
「ねえ時臣くん、ごめんねごめんね。許して。甥っ子さんなんだって?もう声かけないから、返さないで」
「甥って…そんなこと誰に」
「本人」
おじさんは顰めっ面で俺をみたから、俺は
「部屋行ってまぁす…」
って逃げちゃった。ごめんなさいっ!後で謝らなきゃ!
その後おじさんは、春樹とやらをとある場所へ連れてゆき、18時頃にやっと戻ってきた。
「はぁ〜〜〜つっかれた!同じとこ行ったり来たりもうめんどくせー」
ブルーのシャツの前をはだけて、エアコンの下で前をパタパタしてる。
「お疲れ様」
唯希 さんがビールの缶をダイニングテーブルに置いた。
「唯希サンキューな、春樹のこと教えてくれて」
「いえいえ、あたしもちょっとコーヒー買いに行ったら、悠馬君が絡まれてて。誰だろうと思ったら春樹だったからボスに連絡したの」
あ、そういうことだったのか。
「俺もちょうど駅出たところだったからすぐに駆けつけられて良かったよ。あいつしつこいから、悠馬 じゃ手に負えないだろうと思ってさ」
ビールをプシュッと開けたおじさんは、俺に向き直って一口飲むと
「お前な、あんまり甥とかそういう個人情報はダメだぞ、言っちゃ。しかも初対面の相手に」
やっぱそこ来たかー。
「はい…それは反省してます。つい、おじって言っちゃって」
おじさんは苦い顔をしながらビールを飲んでいたけど、少しため息の後
「唯希、この前の写真残ってるか?スマホ画像でもいいけど」
「あ、あるよ。スマホ画像だけど」
唯希さんのスマホケースは、見た目を裏切らない可愛い装飾がゴッテゴテにされたカラフルなものだ。
「はい、これ」
おじさんに画面を出して渡すと、おじさんはそれを俺に向けて見せてきた
「あれ、さっきのキモ男…?」
「こいつ春樹。今手配書がわりに各所に写真ばら撒いてるんだよ。お前来た日現像してたろ?あれ。こいつあぶねーやつでさ、お前さっき連れてかれるとこだったんだぞ」
「え?」
いいいいきなり物騒なこと言われても…え?どういう事?
「あいつな、薬物中毒者でな…さっきは落ち着いてたんだろうな。普段はもっとキーキー金切り声で話す奴だ」
薬物…中毒…者?東京は怖いばい!
「今俺の仕事は、あいつを探す事なんだよ」
ん?何言ってるかわかんない。さっきいたじゃん。んでどっかに返しに行ってたじゃん?
「でもさっき…」
「そうなのよ。今ボスはね、春樹を探す依頼を二つ受けててね、一つは保護、もう一つは、『どんなでも』生きてればいいから連れてこい!っていうね、依頼」
うわ…なになに、ドラマみたいだけど…
「春樹は薬で落ち着いてる時は人恋しくなって、フラフラフラフラ東京中歩きまわるわけよ。んで結局俺に絡みにきてたんだけどな。俺も一般人なもんだから、仕事柄もあってちょっと遠ざけてたわけよ。しかしさ…」
渋い顔をますます渋くして、ビールを飲み尽くした。
その瞬間、唯希 さんは冷蔵庫へ向かい、もう一本出しておじさんの前に置く。奥さんみたいだな…
「あいつバカだから、とある組から買ってる自分の薬を横流ししてな…その組から売った報酬寄越せとせっつかれてるわけだよ。それが、『どんなでも生きてれば』の方。あいつ、兄貴が系列の組の組長やってるから、クスリ安く売ってもらってんのにそれを売り捌くんだから、そりゃ売主は黙ってねえだろ」
ーバカでしょうがねえーとおじさんため息一つ。
『で、保護の依頼の方は、今話した春樹の実の兄貴の方でさ。金は払うから弟はなんとか助けてくれって言う…だからその折り合いをどの辺でつけようかっていうところでな…。結構危ない橋渡ってんのよ俺も」
はぁ…とまたため息をついて、今度はチビチビとビール缶を傾けている。
「春樹は、俺に遠ざけられてるもんだから、俺の血筋だと知ったお前を俺の代わりにしようとしたんだろうな…」
代わり?ですか…?いや…
「なんの?」
「セックス」
セッ!思ったより大きい声出ちゃった…ええ〜どんなこと〜〜?
「え?俺を?…ってこと?」
「や〜たぶんお前『に』かも…」
あの、どういう…
「春樹はね、ヤク中のゲイなのよ。しかもネコちゃんのね」
唯希さん、ネコとは…
「ネコ…?」
「あ…ああ、うん」
唯希さん、そんなおじさんに許可を得るような目をしなくても、俺は童貞じゃないんで、ちょっとのことなら平気っすよ!
「ネコってのは、受け、女性側ってことだな」
ふむふむ、そう言うふうに言うんだ…で、春樹がネコ…って事は
「俺が春樹をヤるってことですかあ〜〜〜?」
「いややらなくていいんだけどな」
おじさん笑わないで!そうだった…ヤる必要はないんだった。
「春樹は、時臣さんにされたくてされたくてされたくてされたくて仕方がない奴なのよ。だからボスの血縁と聞いて……ね」
ね、って可愛く言ってもダメです。え〜〜俺掘らされそうだったん?掘りたくない穴を??
「そんな『叫び』みたいな顔しなくても…ププッ」
そんな肩震わせて笑わなくてもいいじゃんよ!俺が新しい世界に目覚めるところだったんだぞ!って…あれ?と言うことは…だよ?おじさんの代わりに俺をってことは、俺が代わりじゃなければ…いつもおじさんが…?
「お前変な想像すんなよ?俺は女性が好きだ。おっぱいが大好きだ」
「そこまで大声で強調しなくても…え??」
壁の向こうの事務所で、激しく物が落ちる音がした。調書をパソコンに入れる仕事をしていた典孝さんの方だ
「あ、典孝がおっぱいに反応した」
唯希 さん嬉しそうっすね
「典孝童貞だからさー、エッチィ話に敏感なんだよねえ」
事務所とは言ってもパーテーションで覆っているだけの所なので、上が30cmほど空いてて少し大きな声なら向こうに丸聞こえになるらしい。普通の声ならまあ聞こえない。だって向こうから話声聞こえたことないし。
「どっ童貞じゃないぞ!」
いやそんな大声で…
「はいはい」
唯希さんも流しすぎ。
「まあ、そんなわけでお前…名前言わなかったのは偉かったな。俺も言わないようにしてたの気づいてくれたのも偉かった」
ああ、おい、と甥がかかってるとか思っちゃったことか。そう言う意味だとはつゆ知らず…(恥)
「もしかしたら、この近所でまた絡まれるかもだが、無視しとけばいいからな。絶対ついてくなよ」
多分、暴行じゃない心配の方がおじさんは大きいんだろうな。そりゃそうだよ。俺だってヤク中になるのはいやだ…。
でもこの話は、こんなことじゃ済まなかったみたいなんだ。
おじさん出かけたから、俺は寝るね。(勉強しろよは、無しの方向で)
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